tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『無菌病棟より愛をこめて』加納朋子


愛してくれる人たちがいるから、死なないように頑張ろう。―急性白血病の告知を受け、仕事の予定も、妻・母としての役割も、すべてを放り出しての突然の入院、抗癌剤治療の開始。辛い闘病生活の中で家族と友人の絆に支えられ、ユーモアを忘れずに人気ミステリ作家が綴る、たくさんの愛と勇気、温かな涙と笑いに満ちた闘病記。

ひさしぶりにノンフィクションを読みました。
この本は絶対読まなければと思ったから。
「好きな作家を5人挙げてください」と言われたら、私が挙げる5人の中に必ず含まれるであろう作家・加納朋子さんの闘病記です。


2010年6月、『七人の敵がいる』の刊行を控えて忙しい時期に、ひどい貧血を発症した加納さん。
かかりつけのクリニックで血液検査の数値が全体的におかしいという話になり、大病院を紹介され、さらなる検査の後に加納さんにくだされた診断は、急性骨髄性白血病でした。
私は加納さんの旦那さんである作家の貫井徳郎さんのツイッターをフォローしているので、当時、貫井さんが「夫婦ともに体調が悪い」とか「奥さんの方が深刻そうだ」とつぶやかれていたのを見て、どうしたのだろうかと心配していました。
それでも、まさかそんな、命にかかわるような病気を患っておられたとは夢にも思わず、この本を読んで初めて、あのツイートの裏側ではこんな大変な事態が進行していたのだと知って、改めてショックを受けました。


月並みな感想で恐縮ですが、やはりこういう文章を読むと、健康のありがたさを実感させられます。
好きなものを食べられて、夜ぐっすり眠れて、会いたい人に会えて、仕事ができて、家族と共に過ごせて――。
そういった、普段当たり前だと思っていることが、どんなにかけがえのないことか。
と、分かったようなことを言いながらも、実際にその当たり前を取り上げられない限り、本当の意味ではそのかけがえのなさは理解できないのだろうとも思いました。
加納さんはご自分でも書かれている通り、フルマッチの骨髄ドナーが血縁者の中から見つかるなど、かなり運の良い患者だったのだと思います。
ご家族やご友人の優しくあたたかい支援もありました。
けれどもやはり白血病が容易に死のイメージにつながる難病であることには変わりありません。
この闘病記が加納さん本人ではなく、夫である貫井徳郎さんの手で出版されることになっていたとしても、何もおかしくはなかったのだろうと思います。
そんなシビアな現実を描きながらも、この闘病記から伝わってくるのは大きな希望でした。
本書全体を通して、加納さんの前向きな姿勢や、病気を治すための懸命の努力に、強く胸を打たれました。
そして、そんなふうに患者の「生きたい」という強い意志があれば、この国の医療はその思いに応えてくれるだけの体制が整っていて、かつては死を免れなかった病気でさえも、治癒が不可能ではなくなっているのだと分かりました。
これが希望でなくて何だというのでしょうか。
私も加納さん同様、痛いことも怖いことも大嫌いで、病気もけがも回避できるものは全力で回避したいと思っていますが、それでも万一大きな病気を患ったとしても、この闘病記に書かれていることを思い出せば頑張れるのではないかと思いました。


もちろん闘病そのものは壮絶ですが、この闘病記はユーモアも交えて書かれており、笑える部分やほっこりあたたかい気持ちになれる部分も多く、読み心地としてはいつもの加納さんの小説とそれほど大きくは変わりません。
どんな題材で書いても、やっぱり加納さんの文章だなぁと、なんだかうれしい気持ちにもなりました。
また、本書を通して加納さんのプライベートが知れて、作品だけでなくご本人に対するファンにもなりました。
心優しくて、謙虚で、前向きで、頑張り屋さんという一面は、加納さんの作風から想像していた通りのお人柄でとてもうれしかったです。
実はオタクという側面にも、なんだか親近感を覚えました。
体調が悪いのにもかかわらず、好きなマンガの新刊の発売日だからと本屋に走ってしまうその気持ち、とてもよく分かるな~と(笑)
もちろん読むのがつらい部分もあって、ところどころ泣いてしまいましたが、決して暗いタッチにならず読みやすいかたちで大事なことを教えてくれる闘病記になっています。
ぜひたくさんの方に読んでいただきたいと思います。