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tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『大崎梢リクエスト!本屋さんのアンソロジー』

本屋さんのアンソロジー (光文社文庫)

本屋さんのアンソロジー (光文社文庫)


「本屋さん」をモチーフに、短編を一作書いていただけませんか?書店をこよなく愛する作家・大崎梢が、同じくらい書店が好きにちがいない人気作家たちに執筆を依頼。商店街、空港、駅近、雑居ビル。場所は違えど、多種多様な人が集まる書店には、宝石のようなドラマが生まれる。読めば笑えて、泣けて、心がふっと軽くなる、そんな素敵な物語十編。

『和菓子のアンソロジー』『ペットのアンソロジー』と来て、最後を飾る第3編は『本屋さんのアンソロジー』。
本だけではなく本屋さん大好きな私ですから、もちろんこれは読まないわけにはいきません。
いろんな作家さんの作品が1冊で読めるという、アンソロジーならではのお得感もあって、期待通り素敵な本でした。
では各作品の感想を。


「本と謎の日々」 有栖川有栖
本屋さんの日常業務の中で起こる謎を店長が解くという、日常の謎ミステリ。
本屋さんと日常の謎ってやっぱり相性がいいなぁと思わせる作品でした。
短い中にたくさんの謎を詰め込んでいるところが有栖川さんらしいサービスぶり。
それに、本格ミステリのイメージが強い有栖川さんが、意外に(と言っては失礼かもしれませんが…)日常の謎ミステリもいける!というのはなかなかうれしい発見でした。


国会図書館のボルト」 坂木司
商店街の外れにある小さな潰れかけの本屋が舞台の捕物劇(?)。
いい話系かと思いきや…いい意味で予想を裏切られました。
日常の謎の名手という坂木司さんのイメージを覆す面もあるかも?
ところで国会図書館は私も一度行ってみたいです。
本好きにはきっとたまらない場所ですよね。


「夫のお弁当箱に石をつめた奥さんの話」 門井慶喜
これはもうタイトルそのままです。
タイトルだけでは本屋さんと何の関係があるのかさっぱり分かりませんが、中身はちゃんと本屋さんが絡む謎解き話で安心。
けれどその肝心の謎解きが…私は問題が出された瞬間に答えが分かってしまったので、なかなか答えにたどり着かない登場人物にちょっとイラついてしまいました。
これは答えを知っている人がけっこう多いのではないかと思うので、もうひとひねり欲しかったです。


「モブ君」 乾ルカ
書店アルバイトの女性を不愉快にさせる男性客の話。
書店員も人間ですから、苦手と感じるお客さんがいるのは当然のことですね。
客側の立場の私は、自分が本屋の店員さんにこんなふうに思われていなければいいなぁとちょっと落ち着かない気持ちになりましたが。
舞台になっている書店はやがて閉店の時を迎えます。
書店が置かれている厳しい状況に、切ない気持ちになりました。


「ロバのサイン会」 吉野万理子
都会の本屋でサイン会…じゃなくて撮影会を開いたロバの話。
なんと主人公がロバ!という時点で非常にユニークですが、ロバ視点で見た本屋と本の描写というのもとても面白かったです。
なんといっても主人公のロバ、「ウサウマくん」がかわいい。
ストーリーもとても好みでした。
個人的にこのアンソロジーの中でベストの作品。


「彼女のいたカフェ」 誉田哲也
書店併設のカフェで働く女性店員と、そのカフェの常連客の話。
この作品は舞台をちょっとひねってブックカフェに設定しているのがいいなと思いました。
同じ本屋さんの中にあっても、本を販売しているエリアとは店員と客との関わり方がちょっと違っていて、その違いがうまく活かされた話になっています。
また、私は誉田哲也さんの作品を読むのが初めてだったのですが、誉田さんの作品のファンにとってはちょっとうれしい「仕掛け」があるようです。
こういうファンサービスはいいですね。


「ショップ to ショップ」 大崎梢
スタバの店内で交わされていた謎の会話から、書店が舞台のある企みを見抜いた主人公は――。
「企み」の中身は嫌な気分になるものでしたが、本屋さんが好きな登場人物たちの存在に少し救われます。
書店や出版業界の苦境の原因の一部は間違いなく、この作品に描かれている犯罪だと思うので、なんとかならないものかと思います。
本好きとして何かできることはないのだろうかと考えさせられました。


「7冊で海を越えられる」 似鳥鶏
彼女から贈られた7冊の本の謎を解いてくれと客から相談された書店員の謎解き話。
謎解き役の店長さんが個性的なキャラクターでなかなか面白いです。
謎自体もなかなかうまいなと思いました。
またこの作品には「書店用語」に対して脚注がつけられており、その脚注の内容も面白かったです。
本屋さんの業務にあまり詳しくない人も、これを読めば少し知識がつくこと請け合い。


「なつかしいひと」 宮下奈都
引っ越した先の街の本屋で不思議な少女に出会う男子中学生の話。
ストーリー展開は先が読めてしまいましたが、それでもなかなか泣かせる話です。
このアンソロジーの中ではもっとも抒情的な作品ですね。
宮下奈都さんは一度読んでみたいと思っていた作家さんだったので、今回この本で読めたことはいい機会になりました。
長編も読んでみたいと思います。


「空の上、空の下」 飛鳥井千砂
空港内の書店を舞台にした作品です。
街中ではなく空港内という場所だからこその、書店員が抱えるもやもやは、私も本好きのひとりとして理解できる気がしました。
だからこそ結末にはホッとさせられます。
また、「本を読むということは、自分の視野や世界を広げることだと思う。」という一文に大いに共感しました。
広い世界へと旅立つ出発点である空港という場所と、うまくリンクさせた言葉でもあります。


3か月連続で刊行されたアンソロジーもこれで最後。
どのアンソロジーにも楽しませてもらいました。
自分の好きなテーマばかりだったというのが大きいですが、やはり読んだことのない作家さんとの出会いというアンソロジーの魅力が存分に味わえたのがよかったです。
☆4つ。


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