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tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『マスカレード・イブ』東野圭吾


ホテル・コルテシア大阪で働く山岸尚美は、ある客たちの仮面に気づく。一方、東京で発生した殺人事件の捜査に当たる新田浩介は、一人の男に目をつけた。事件の夜、男は大阪にいたと主張するが、なぜかホテル名を言わない。殺人の疑いをかけられてでも守りたい秘密とは何なのか。お客さまの仮面を守り抜くのが彼女の仕事なら、犯人の仮面を暴くのが彼の職務。二人が出会う前の、それぞれの物語。「マスカレード」シリーズ第2弾。

『マスカレード・ホテル』の主人公である新田と尚美が出会う前の話を4話収めた短編集です。
「いきなり文庫!」という、私のような文庫派には大変ありがたい企画でもあります。
前日譚ということなので時系列的にはこの作品を先に読んでも問題なさそうな気がするのですが、最後まで読むとやっぱり『マスカレード・ホテル』を先に読んだ方がいいなと思いました。
『マスカレード・ホテル』を先に読んでいればこそ、ちょっとにやりとできるような場面がそこここに登場するからです。
特に最後の「エピローグ」は『マスカレード・ホテル』を読んでいないと、思わせぶりな書き方をしているだけで意味の分からないエピソードという印象に終わってしまいそうです。
そういう意味ではやはり、この『マスカレード・イブ』は『マスカレード・ホテル』の続編と言えると思います。


この短編集の目玉は、表題作であり、文庫刊行にあたって書き下ろされた「マスカレード・イブ」なんだろうと思いますが、個人的には「仮面と覆面」が一番面白かったです。
収録作品すべてにおいて、「仮面」というのがキーワードになっていますが、「仮面と覆面」では覆面作家が登場し、その覆面作家がさらに「仮面」をかぶっているというのが肝になっています。
覆面の下にさらなる仮面が…と想像すると楽しいですし、洒落も利いていて面白いと思いました。
また、作家がらみの話なので出版社の編集者も登場しており、その編集者という職業に対するコメントには思わず笑いました。
東野さんなりの、いつもお世話になっている編集者へのヨイショなのでしょうか。
これを最初に読んだ東野さん担当の編集者の反応がどんなものだったのか、気になるところです。


全体を通して気になったのは、『マスカレード・ホテル』よりも何年か前の話ということで、新田も尚美もまだ勤務年数が浅く、未熟なところが垣間見えるところ。
新米なら未熟なのは当たり前ですが、『マスカレード・ホテル』で味わえたようなプロ意識の高い職業人を主人公とするお仕事小説的な側面は、今回の短編集では鳴りをひそめています。
特に尚美はちょっと好奇心が強すぎて、ホテルマンとしてはあるまじき行為までしているところが少し鼻につくかも。
ここからいろいろな経験を重ねていって、『マスカレード・ホテル』での落ち着いたフロント・クラークである尚美に成長していくんだろうなというのは想像できるのですが…。
そういう意味では『マスカレード・ホテル』の方が気持ちよく読めたし、実際に尚美の勤務するホテル・コルテシア東京のようなホテルに泊まってみたいとも思えました。
その点は少し残念です。


東野作品ならではの読みやすさとストーリー運びのうまさはさすがと言えるところ。
非常に安心して読める、安定感のある短編集です。
ただし、できるだけ『マスカレード・ホテル』を先に読まれることをおすすめします。
☆4つ。


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