tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『パラドックス13』東野圭吾

パラドックス13 (講談社文庫)

パラドックス13 (講談社文庫)


13時13分13秒、街から人が消えた。無人の東京に残されたのは境遇も年齢も異なる13人の男女。なぜ彼らが選ばれたのか。大雨と地震に襲われる瓦礫の山と化した街。そして生き抜こうとする人達の共通項が見えてくる。世界が変れば善悪も変る。殺人すらも善となる。極限状態で見えてくる人間の真理とは。

SFパニックサスペンスという感じでしょうか。
まるで映画のような映像が、文章を読みながら頭の中にバーッと流れていきます。
東野さんの表現力が存分に活かされた作品だと思います。


突然、人が消えた東京。
なぜかそこに残された13人の男女は、力を合わせて生きていこうとします。
ところが度重なる大地震、大雨、洪水により、街は壊滅状態に。
次々に直面する絶望的な状況を前に、彼らの選択は――。


私はあまりSFを読む方ではないし、理系の人間でもないので、この作品で描かれる「P-13現象」と呼ばれるものが科学的に矛盾のないものなのかどうかは分かりません。
でも、東野さんも別に本格的なSFを書きたかったわけではないのだろうなと思いました。
この作品の主眼は、極限状態に置かれた人間は一体どのように考え、どのように生きるのか、というところにあります。
自分が昨日まで普通に生活していた街から他の人間が消え、災害が次々と襲い、壊滅していく中で、残された13人の人々は、生き抜くために様々な選択を迫られ、それまで考えたこともなかったようなことを考えなければならない状況におかれます。
1人でも多く生き残るためには、切り捨てなければならないものもあります。
善と悪の価値観も、生きるか死ぬかの状況では変わらざるを得ません。
同じような状況におかれた時に、自分ならどうするのか、どう考えるのか。
それを想像しながら読むと面白いと思います。


極限状態においても、もちろん人にはそれぞれ個性があります。
その考え方の違い、言動の違いも読みどころ。
キャリアの警察官である誠哉は、冷静沈着に最善の道を選ぼうとする人物で、それゆえに13人の中のリーダー的存在になりますが、彼とて普通の人間なのでいつも正しいわけではありません。
誠哉の弟の冬樹は兄とは逆に直情的な人物で、誠哉に比べると冷静さには欠けるのですが、個人的には誠哉よりも冬樹の方に共感できるところが多かったです。
その他にも食いしん坊だったり、元の世界での立場にこだわる人物だったり、わけありらしき母子がいたり…と、登場人物の個性がしっかり描き分けられているので、困難に立ち向かう中で起こる、人間同士だからこそ起こる問題や対立に、強い説得力があります。
最後の方に起こるある「事件」は、こういう設定の作品なら必ず起こるだろうと思っていたので予想通りではありましたが、その事件に対する人々の反応がなかなか考えさせられました。
限られた人間しか残っていない中で、論理や理屈を重視するのか、それともどんな状況下であっても個人の尊厳や心情を尊重すべきなのか。
どちらが正解というものでもないのでしょうが、非常に重い問いだなあと思いました。


読みやすさはいつもの東野作品と同じで、読み応えもありました。
パニック映画のような面白さもありました。
でも私は東野さんの作品では、やっぱりミステリの方が好きです。
この作品にももう少し謎解き要素もあるとよかったのに…と思わずにはいられませんでした。
それなりに楽しめたのも事実ですが。
☆4つ。