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tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『ピエタ』大島真寿美


18世紀ヴェネツィア。『四季』の作曲家ヴィヴァルディは、孤児たちを養育するピエタ慈善院で、“合奏・合唱の娘たち”を指導していた。ある日教え子エミーリアのもとに恩師の訃報が届く―史実を基に、女性たちの交流と絆を瑞々しく描いた傑作。2012年本屋大賞第3位。

本屋大賞で3位になった作品、ということで手に取ってみました。
読んだことのない作家さんの作品に挑戦するきっかけとして、文学賞は非常に参考になっていいですね。
今回も今まであまり読んだことのない雰囲気の作品と出会うことができました。


舞台は18世紀のヴェネツィア
タイトルにもなっているピエタとは、捨て子たちを保護し養育する慈善院の名前です。
このピエタで楽器演奏などを指導していたのが、アントニオ・ヴィヴァルディ
そう、「四季」で知られる名作曲家です。
やがてピエタを離れ、ヴェネツィアをも離れて旅に出たヴィヴァルディは、ウィーンで逝去します。
自らもピエタ出身の孤児であり、ピエタで働いているエミーリアは、あることをきっかけに恩師であるヴィヴァルディに関わった女性たちと出逢い、彼女たちの話から、知らなかった恩師の姿を知っていくこととなります。


史実に基づいた作品ということで、あまりヨーロッパの歴史に詳しくない私としては、ちゃんと背景などが分かるのかどうか不安でしたが、あまり時代は意識することなく読めました。
むろん当時の文化や世相やヴィヴァルディの生涯について知識があった方が楽しめるのだろうとは思いましたが、なくても物語を追う分には全然問題ありません。
むしろ読んでいるうちに気になる部分が出てきて、ネットで調べてみたりしたので、この作品のおかげで多少知識がついたかも。
例えば「戦争」について何度か作中で言及されているのですが、詳細については特に触れられておらず、どんな戦争だったのかは全く分かりません。
調べてみたところおそらくオーストリア継承戦争(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AA%E3%82%A2%E7%B6%99%E6%89%BF%E6%88%A6%E4%BA%89)のことですね。
作中では「周辺国まで巻き込んだ大規模な戦争に発展している」といったような記述がありましたが、ロシアまでも参戦していたとは…。
いやいや、勉強になりました。
やはりたまにはあまり読まないタイプの小説も読んでみるべきですね。


でも、ストーリーはあくまでもヴィヴァルディに関わった女性たちの交流が主題。
歴史知識があまり必要ないのはそのためです。
どんな時代であっても人間の交流の様子はそれほど大きく変わるものではありませんから。
ヴィヴァルディの妹たちや、彼が通っていた高級娼婦など、身分も立場もさまざまな女性たちが登場しますが、彼女たちの話を通してヴィヴァルディの人物像が浮き上がってきます。
でもそれ以上に女性たちそれぞれの生き方が興味深く思えました。
主人公のエミーリアも孤児だったのであり、ピエタで育って恵まれている方だったとはいえ、苦労も多い人生だったことでしょう。
その他の登場人物たちも、みなそれぞれに山あり谷ありの人生を送っています。
時代が違っても人間が生きていくということは大変なことですね。
ラストに出てくる「よりよく生きよ」という言葉が胸に沁みます。
人生について描きながら、あまり重くならずに淡々としているのがよかったです。


欲を言うならヴェネツィアの風景描写がもっとあるとよかったかな。
ゴンドラでの移動やカーニヴァルの様子など、情景を思い浮かべられる場面がところどころにあったのも確かですが、基本的にエミーリアがあまりピエタを離れられないという設定のため、18世紀のヴェネツィアの空気感に浸れるというところまでいかないのが少し残念でした。
それでもヴィヴァルディの音楽を聴きたくなりました。
ヴィヴァルディの人気が落ちていることを妹たちが嘆くシーンがありますが、300年経ってもお兄さんの音楽は愛されていますよと教えてあげられたらいいのにと思ったりもしました。
全体的に淡々とした、静かで落ち着いた雰囲気の作品です。
☆4つ。