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tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『Story Seller annex』新潮社ストーリーセラー編集部・編

Story Seller annex (新潮文庫)

Story Seller annex (新潮文庫)


大好評アンソロジー「Story Seller」の姉妹編をお届けします。今回も、6名の超人気作家が豪華競演。オール読みきりで、読み応え抜群の作品を詰め込みました。あっと驚かされるミステリ、くすりと笑える話から、思わず涙がこぼれる恋愛小説まで。物語の力にどっぷり惹き込まれる幸せな読書体験をどうぞ。お気に入りが見つかったら次の本を探せる、作家別著作リストも完備しました。

毎回豪華執筆陣でお気に入りのアンソロジー、第4弾です。
今回の執筆者は、道尾秀介さん、近藤史恵さん、有川浩さん、米澤穂信さん、恩田陸さん、湊かなえさんの6名。
いずれも今の日本の大衆文学界を代表する人気作家さんばかりで、それだけで質の高さが保証されているというものです。
では早速各作品の感想を。


「暗がりの子供」道尾秀介
小学三年生の莉子の、やがて生まれてくる妹と、病気のおばあちゃんをめぐる母親への複雑な心理描写が秀逸な作品でした。
作中作の絵本もとても印象的。
読んでいてドキッとさせられるような書き方がとても道尾さんらしいですね。
あまり明るいタッチの作品ではありませんが、読後感は悪くなかったです。
ひな人形が出てきて、季節的にぴったりだったのもよかったです。


「トゥラーダ」近藤史恵
『サクリファイス』から始まる自転車レースシリーズの番外編的短編です。
どんなスポーツにもつきものであろう、ドーピング問題を題材にしています。
自転車選手の食事のことや主人公の誓(ちかう)が住むポルトガルの文化など、興味深い部分がたくさんあって面白く読めました。
ラストは少し切ない。
アスリートであり続けることは、精神的に大きな負担にもなるのだろうなと思いました。


「R-18――二次元規制についてとある出版関係者たちの雑談」有川浩
とある作家と編集者が、近年話題の表現規制について話し合うというただそれだけの作品なのですが、これが強烈なインパクト。
「二次元エロ」について面白おかしく、かつ大真面目に語っています。
「二次元エロは二次元だからこそ成立し、三次元化したら興ざめである、よって二次元エロを規制する法律は不当な表現規制である」という論理が妙に説得力があっておかしかったです。
有川さんぶっちゃけましたね~(笑)
名前こそ出していないものの、この人としか思えない某作家出身政治家への批判がなかなか痛快でした。


「万灯」米澤穂信
とある日本の商社に勤める主人公が、バングラデシュでの天然ガス開発に携わる中で、2件の殺人を犯すに至った経緯を描く作品。
何とも言えずゾクッとさせられる話です。
主人公としてはただただ仕事を何としても成功させたかった、ただそれだけだったのに。
殺人犯というとちょっとどこか異常な人、普通の人とは違うところのある人、とそう信じたい心理が誰にでもあると思います。
でも、この作品の主人公は別に異常者ではありません。
仕事を遂行するために殺人まで犯すというのが異常と言えばそうなのかもしれませんが、もともとは仕事熱心でまじめな、日本人にはよくいるタイプの人だと言えると思います。
米澤さんの作品はたまにこういう怖い話がありますね。
下手なホラーよりよっぽど怖いです。


ジョン・ファウルズを探して」恩田陸
ジョン・ファウルズというイギリスの小説家をめぐるエッセイ作品。
恩田陸さんにとって、素直に好きな作家と言えない、ちょっと複雑でだからこそ特別な作家がジョン・ファウルズだとのことです。
本好きなら誰にでもそういう作家が1人や2人は思い浮かぶのではないかなと思います。
それほどたくさんの作品を残した作家ではなかったようですが、このエッセイに紹介されている作品はどれも興味深く感じました。
読みやすい作家でもなさそうですが、ちょっと気になります。
イギリスの出版界事情についても興味をかきたてられました。


「約束」湊かなえ
トンガの学校に勤務する1人の日本人女性を主人公とする物語。
これはおそらく、前回の『Story Seller 3』に収録されていた湊さんの作品の続編あるいは姉妹編だと思うのですが、舞台がトンガであるということと阪神大震災が関わっているということ以外のつながりは分かりませんでした。
いつか単行本にまとめられたら分かるのかなぁ。
トンガの学校の様子は興味深かったし、主人公が抱えるある事情も気になったけど、あまりミステリ的にも恋愛小説的にもひねりはなく、何が描きたかったのかいまひとつ分からない印象。
湊さんの作品としてはパンチが足りないかな。
もし最終的に連作短編集のような形を考えておられるのであれば、その完成形に期待したいと思います。


今回は6作品中4作品が外国に触れていたのが印象的でした。
作家さんの個性もそれぞれよく出ていたので、ちょっと気になっている作家さんがいるという人にはお勧めです。
文章の相性も確認できるでしょうし。
それがアンソロジーのよさですね。
飛び抜けてよい作品というのもありませんでしたが低レベルな作品というのもなく、無難にまとまったアンソロジーだと思います。
☆4つ。