tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『ケルベロスの肖像』海堂尊


東城大学病院を破壊する―病院に届いた一通の脅迫状。高階病院長は、“愚痴外来”の田口医師に犯人を突き止めるよう依頼する。厚生労働省のロジカル・モンスター白鳥の部下、姫宮からアドバイスを得て、調査を始めた田口。警察、法医学会など様々な組織の思惑が交錯するなか、エーアイセンター設立の日、何かが起きる!?文庫オリジナル特典として単行本未収録の掌編を特別収録!

「チームバチスタ」シリーズもついに最終巻。
とはいえ海堂さんの「桜宮サーガ」自体はまだまだ続いていきそうだし、いくらでも続けられそうな雰囲気なので、あまり「これが最後!」感はありません。
おかげでさみしさを感じることもなく、普通にシリーズの中の1作として読みました。


いつものごとく高階病院長に呼び出された田口公平は、驚くような話を聞かされます。
なんと東城大学病院を脅迫する怪文書が届いたというのでした。
開設の日を間近に控えたAiセンターを破壊すると取れる内容の脅迫状に対し、田口は高階病院長の指示を受けて犯人調査に乗り出します。
まずは桜宮碧翠院にそっくりなAiセンターの建物建築の裏事情を探るべく動き出した田口でしたが――。


さすがシリーズ完結編というだけあって、いきなり脅迫状が登場するという危機的な状況。
とはいえ、そこは主人公の田口の人柄のおかげか、あまり緊迫感はなく、適度に笑える会話や場面もあって、いつも通りの雰囲気で安心して読めます。
田口は相変わらず貧乏くじを引かされて、高階病院長や白鳥に振り回されていますし、高階病院長の腹黒たぬきっぷりも、白鳥の傍若無人ぶりもいつも通り。
最終巻だからと言って特別な感じではなく、シリーズ読者にはおなじみのドタバタ劇が繰り広げられるところがいいですね。
いつも通りの雰囲気を継承したまま、田口と姫宮がついに邂逅を果たしたり、ルー大柴さんのようなしゃべり方をする強烈な個性の新キャラ・東堂が登場したり、Aiセンターがついに始動したり、といった新たな展開もあって、存分に楽しませてくれます。
もちろんこれまでのシリーズに登場した人物たちのその後が知れるエピソードがちょこちょこ挟まれる読者サービスも。
「チームバチスタ」シリーズだけではなく、桜宮サーガ全体を楽しんできた人なら、作中のあちこちでにやりとできることと思います。


ただ、逆に言うとこの作品単体のみを読んでもあまり面白みがないかなと思います。
シリーズものの宿命と言えるとは思いますが、本編シリーズだけではなく、派生シリーズまで全部読んでいないとよく分からない部分があるというのは結構ハードルが高い気がします。
本編も派生編も含めて物語の世界が広がった分、登場人物も多くなり、人間関係も複雑になって、ちょっとごちゃごちゃした印象があるのも残念。
個人的には今回はあまり白鳥の破壊力が感じられなかった点が一番残念でした。
もっと強烈に物語をかき回してほしかったなぁ。
それがシリーズを通しての白鳥の存在意義だったと思いますし、ある意味では田口と並ぶ主人公ですから、最後となればもっと華々しく活躍(?)してほしかったです。
ミステリ度が低いのもちょっと残念ですね。
個人的には前作の『アリアドネの弾丸』の方が好きです。
けれども桜宮一族との最終対決はなかなかの見どころでしたし、田口が自衛隊の戦車に乗って公道を移動(!)というトンデモ展開も面白かったです。
Aiセンターが迎える結末も、このシリーズの完結篇としてふさわしく、うまくピリオドを打たれたのではないかと思います。


さらにこの後の東城大学病院の様子も読んでみたい気がしますが、それはまたスピンオフでチラリと見せてくれたりするのでしょうか。
きっとまた何らかの形で田口や白鳥と会えるんじゃないかな。
そんな予感がしています。
チーム・バチスタの栄光』からシリーズを通してずっと、Aiの重要性と今の医療が抱える問題点を小説という形で訴えてこられた海堂さん。
でも、まだまだ語り足りない、世の中に訴えたいことがあるんじゃないでしょうか。
また次の作品に期待しています。
☆4つ。