tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『偉大なる、しゅららぼん』万城目学


高校入学を機に、琵琶湖畔の街・石走にある日出本家にやって来た日出涼介。本家の跡継ぎとしてお城の本丸御殿に住まう淡十郎の“ナチュラルボーン殿様”な言動にふりまわされる日々が始まった。実は、日出家は琵琶湖から特殊な力を授かった一族。日出家のライバルで、同様に特殊な「力」をもつ棗家の長男・棗広海と、涼介、淡十郎が同じクラスになった時、力で力を洗う戦いの幕が上がる…!

京都(『鴨川ホルモー』)、奈良(『鹿男あをによし』)、大阪(『プリンセス・トヨトミ』)と続いてきた万城目学さんの近畿ファンタジーシリーズ(版元がすべて違い、ストーリー上のつながりもないので、別にシリーズとして売っているわけではないですが…)、今回は滋賀県です!
滋賀県と言えば琵琶湖、ということで、琵琶湖から不思議な力を授かった人たちのお話です。


高校進学に伴い、湖西にある実家から湖東の街・石走(いわばしり)へやって来た日出涼介。
彼は日出本家に下宿してそこから高校に通いながら、日出家の「力」を持つ者として修業をすることになります。
日出本家当主の息子・淡十郎の「供の者」に勝手にされたり、日出家の宿敵である棗家の跡継ぎ・広海に嫌悪感を覚えたりしながら始まった高校生活でしたが、やがて高校の校長が不穏な動きを見せ始め――?


相変わらず発想が面白いというか、よくこんなこと考えつくなぁと感心してしまいます。
他人の心の中に入り込んだり、相手の時間を止めたりといった特殊能力を、琵琶湖から「与えられる」というのが面白いですね。
琵琶湖って一体何者なのかと。
自然を崇拝する思想は世界各地にあると思いますが、神格化というよりは擬人化されている琵琶湖の扱いが興味深いです。
日出家の描写がいちいち現実離れしているのも面白い。
住んでいる場所が「城」だったり、舟(船頭さんがいる)で高校に通ったり、淡十郎の趣味(?)で真っ赤な学ランを着ていたり、淡十郎の姉・清子が白馬に乗って移動していたり…。
なかなか楽しそうな世界ではあります。
この春に映画が公開されるとのことですが、確かにこの世界は実写映像で表現したら面白さが増しそうですね。
琵琶湖の雄大さも映像の方が説得力が大きいでしょうし、終盤の涼介や棗広海の大冒険(?)もぜひ迫力ある映像で見てみたいなぁと思います。
「しゅららぼん」はどんな描写になるんでしょうね。
ぜひ音には凝っていただきたいものですが。


その「しゅららぼん」ですが、これについては作品を読んでみてくださいとしか言えません。
というか読んでも分かったような分からないような…。
これについては万城目さんの他の作品でも「なんだかよく分からないもの」が登場しているのと同様のイメージです。
あくまでもファンタジーですから説明しすぎない方がいいのだと思います。
日出家の能力も、棗家の能力も、よくよく考えると悪用すれば世界征服すら可能ではないかと思えるようなものですが、それが滋賀県の琵琶湖湖畔という非常にピンポイントな場所にとどまっているせいで、両家のにらみ合いが長年にわたって続いているという以外はいたって平和的です。
琵琶湖から離れると力が薄れるという設定が効いていますね。
小さな世界でいがみあう因縁の両家。
なんだか非常に日本らしい話のような気がします。
でも、だからこそ、特殊能力を持っている以外はごく普通の高校生が主人公でもストーリーが成り立つのでしょう。
スケールが大きいのかと思いきや実は意外とそうでもない?という、いい意味での肩すかし感が奇妙な面白さを生んでいると思いました。


緊迫した場面あり、意外な展開ありで、なかなか起伏あるストーリーが楽しかったです。
ほんのり青春小説の香りもあり…かな。
そういえばこの作品、現代が舞台なんですよね?
今時の高校1年生は、白馬を見ても「暴れん坊将軍」は連想しないような気がするんですが…どうなんでしょう。
☆4つ。