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tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『極北ラプソディ』海堂尊

極北ラプソディ (朝日文庫)

極北ラプソディ (朝日文庫)


破綻した極北市の市民病院。
再建を図る新院長・世良は、人員削減や救急診療の委託を断行、
非常勤医の今中に"将軍"速水が仕切る雪見市の救命救急センターへの出向を指示する。
崩壊寸前の地域医療は、ドクターヘリで救えるのか?
医療格差の現状を描く!

海堂さんの書く作品はすべて同じ世界を舞台にしていて、多少時期の違いはありますが、基本的にはすべてがつながっています。
だから、他の作品に出てきた人物や出来事のその後、あるいはそれ以前の様子が知れるのがうれしいのです。
今回は『ブレイズメス1990』の主人公・世良が財政再建請負人として市民病院に赴任し、『ジェネラル・ルージュの凱旋』の速水が救急医療に携わる地・極北市を舞台に、財政破たんした極北市の地域再生と、ドクターヘリの実態を描いています。


語り手は前作『極北クレイマー』と同じ、極北市民病院の今中医師。
極北市の財政破たん後、医師や看護師たちが次々に辞め、今となっては医師2人、看護師2人の小所帯になり、救急受け入れも不可能になった市民病院は、隣の雪見市にある極北救命救急センターに救急医療を任せざるを得ない状況になっています。
そんな中、市民病院が診察を拒否した患者が死亡するという事例が発生。
院長の世良に世間の非難が集中しますが、世良はそんな状況の中で今中を極北救命救急センターへレンタル移籍させます。
センターでドクターヘリの研修を受けたり、救急チームの一員として治療にあたる今中が、市民病院を離れて気付いたこととは――。


各作品でいろいろな医療問題を取り上げている海堂さん、今回は財政破たんに陥った地域での医療と、ドクターヘリの可能性を取り上げていて、よく毎回ネタが尽きずに次々と新鮮でタイムリーなネタを出せるものだなと感心します。
ですが、それは裏を返せば日本の医療には本当にたくさんの問題があって、論じるべき事柄が尽きないということの表れなのだと思います。


救急医療が人命を救うという点においてどれほど重要であるかは言うまでもありません。
けれども、当然ながら医師や看護師といった医療スタッフがいなければ、そして患者を搬送するための手段や受け入れ先の病院がなければ救急医療は成り立たないのです。
財政破たんに陥り、財政再建団体になった極北市では、市民病院も経営破たん状態になってしまい、救急医療を行うことは不可能になってしまいました。
救える患者を救いたいという医師らしい使命感を持つ今中に対し、できないものはできないと割り切る世良。
患者側の立場から見れば、心情的には今中の肩を持ちたい気がしますが、実際のところ医療だってタダではないのですから、満足な医療体制が維持できないのであれば無理に救急患者を受け入れるべきではないのでしょう。
そうでなければ結局医療も最終的には破綻してしまいます。
そんなことはあってはならないことです。
感情に流されずに経営という観点から医療を見ることのできる世良のような医師と、命を救いたいという使命感と正義感の強い今中のような医師と、そういう2種類の医師がより良い医療のために必要なのだろうと思いました。


ドクターヘリについてはその運用システムから性能面まで、とても詳しく書かれていて、今まで全く知らなかったドクターヘリについて急に詳しくなれた気がしました。
また、ドクターヘリの現場に関わっているスタッフたちは、医師や看護師はもちろん、パイロットや整備士たちもみなプロ意識が高く、患者の命を救うためにそれぞれの役割に全力を尽くしています。
その姿がすがすがしく、かっこいいなぁと思いました。
救急医療の現場は過酷なものだと思います。
何しろ救急患者はいつどこで発生するか分かりません。
私も付添いで救急車に乗ったことがあるのですが、深夜であるにも関わらずスタッフの方たちが迅速に対応してくださり、安心感と感謝の気持ちでいっぱいになったことを思い出しました。
大変な仕事で、でもとても大切な仕事だからこそ、そうした仕事に携わる人たちが報われるような医療体制を維持するために、医療関係者だけではなく一般市民も医療が抱える問題点に目を向けていかなければならないと思います。


今中、世良、速水という3人の医師がそれぞれの立場で地域医療に奮闘する姿が印象的でした。
財政破たんした地方都市が舞台ですが、決して暗いトーンではなく、どんな状況下においても希望は潰えないという書き方をされているのがよかったです。
とても気持ちよく読み終われました。
☆4つ。