tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『豆腐小僧双六道中おやすみ』京極夏彦

文庫版  豆腐小僧双六道中おやすみ (角川文庫)

文庫版 豆腐小僧双六道中おやすみ (角川文庫)


妖怪総大将であった父に恥じぬ立派なお化けになるため、達磨先生と修行の旅に出た豆腐小僧。甲州の裏街道を行く人間2人組を理由もなく追いかけるが、道中は思いもよらぬ珍騒動ばかり。突如現れた金の鴉に巨大な蟹、凶悪な邪魅。芝居者狸らによる“妖怪総理化計画”。信玄の隠し金を狙う人間たちの悪だくみ…。ゴタゴタに巻き込まれた豆腐小僧に、驚くべき災難が降りかかる。果たして小僧の運命や如何に!?シリーズ第2弾。

妖怪と人間たちの珍道中を描いたシリーズ第2作。
何と言ってもおバカな豆腐小僧が可愛らしいのです。
プッと思わず吹き出してしまうような面白い場面が多く、楽しい読書になりました。


人間の想念が生み出した「概念」にすぎないにもかかわらず、どういうわけかそこに「存在している」奇妙な妖怪、豆腐小僧と滑稽達磨。
甲州の裏街道で、山伏の玄角と、天狗に弟子入りを希望する権太の2人組に出会います。
それがきっかけでなぜか人間たちの怪しげな企みと、その人間たちが生み出した妖怪たちとの大騒動に巻き込まれていく豆腐小僧と滑稽達磨。
豆腐小僧も思わぬ危機に直面しますが――?


相変わらず豆腐小僧がかわいい。
ってこればっかりじゃないですが。
おバカで能天気な豆腐小僧と、妙に知恵と知識があって理屈っぽい滑稽達磨との会話が楽しいです。
語り手のツッコミも絶妙で、笑ってしまう部分もたくさんありました。
今回は前作に増してたくさんの妖怪が登場して非常に賑やかになっています。
猫股、小豆そぎ、河童、カンチキ、天吊るし、狐に狸に鼬(いたち)に貂(てん)と、下等妖怪から神様に近いようなのまで、本当に幅広い妖怪・妖物が登場します。
その一つ一つに対して丁寧な解説がなされているので、妖怪の文化や歴史について学ぶことができ、民俗学の入門編としての楽しみ方もあると思います。
今よりも暗闇が多く、科学知識が乏しかった時代に、原因がよく分からない事象や出来事を説明するために生み出された妖怪という概念。
昔の日本人がどのように物事を捉えていたか、どんな想像力を持っていたのかということが妖怪文化から見て取れると思います。
京極夏彦さんをはじめとして、たくさんの作家さんや学者さんが関心を持って調べている理由がよく分かります。
妖怪文化は日本の文化を下支えしていると言っても過言ではないと思います。


さらに今作は妖怪だけではなく人間たちの騒動の方も面白かったです。
倒幕を企む人間たちの一大陰謀物語…と思いきやそんな大層なものでもなく、実際のところ欲にまみれた人間たちのちょっと間抜けな大騒ぎ、という感じで、人間の本質って時代が違っても大して変わらないなぁと苦笑させられました。
根っからの悪人というのもあまり登場しないけれど、かと言って善人もほとんどいない、という胡散臭い人間だらけなところが面白かったです。
特に気になったのが、「腹毀(こわ)した牛が石垣にぶち当たったような顔」などと散々な比喩ばかりされるご面相の持ち主、虎五郎。
一体どんな悲惨な不細工顔なのか、非常に気になります(笑)
もう一人、権太という登場人物もかなりの不細工だと書かれていますが、そうすると人間側の登場人物は妖怪側以上に不気味で怪しげな見た目になっていそうで、それもなんだか皮肉っぽくて面白いなぁと思いました。


終わり方を見るとまだ続編を考えられているようなので、次作も楽しみです。
豆腐小僧は今度はどんな冒険をして、どんな妖怪&人間に出会うのか?
またぷぷっと笑える珍道中を期待しています。
☆4つ。