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tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『四畳半王国見聞録』森見登美彦

四畳半王国見聞録 (新潮文庫)

四畳半王国見聞録 (新潮文庫)


「ついに証明した!俺にはやはり恋人がいた!」。二年間の悪戦苦闘の末、数学氏はそう叫んだ。果たして、運命の女性の実在を数式で導き出せるのか(「大日本凡人會」)。水玉ブリーフの男、モザイク先輩、凹氏、マンドリン辻説法、見渡すかぎり阿呆ばっかり。そして、クリスマスイブ、鴨川で奇跡が起きる―。森見登美彦の真骨頂、京都を舞台に描く、笑いと妄想の連作短編集。

ハハハ、阿呆です。
阿呆の極みとしか言いようのない世界。
さすが森見さん、絶対に森見さんにしか書けない作品だなぁ。


四畳半に住む阿呆な大学生たちが繰り広げる阿呆な騒動や阿呆な妄想を描いた連作短編集です。
阿呆すぎて感想を述べようにも阿呆という言葉しか出てきません(笑)
…というわけにもいかないので…。
とにかく登場人物が、個性的という単純な言葉ではくくれない非凡人ばかり。
四畳半王国を築き、その王として君臨し、王国の拡大をもくろむ男だとか。
数学への歪んだ愛(?)により、数式をもっていろんなことを、たとえば自分に恋人がいるということを証明しようとする男だとか。
桃色映像のモザイクを外すという特技を持った男だとか。
精神的に凹むと周囲の環境を物理的に凹ませることができる男だとか。
マンドリン辻説法で人心を掌握しようとする男だとか。
すごいんだか何だかよく分からない能力を持ち、でもそれを何にも活かしきれずにただ阿呆に無為に日々を過ごす大学生たちばかり登場します。
あまりに阿呆ばかりで、もしかして最近の大学生はみんなこうなのかと危うく錯覚してしまいそうです。
そんなわけないって。


とにかく妄想力がすごいのが彼らの共通点でしょうか。
ただ、腐っても(?)京大生(作中では大学名は明示されませんが、明らかに京大です)、阿呆な妄想がやたら難しげなもったいぶった文章で語られるのがまたおかしいです。
その妄想の暴走は、読者すらも置いてきぼりにするほど。
SFなのかファンタジーなのか、どこからが現実でどこからが妄想なのかも分からないままに、とにかく独自の世界をここまで突き進める著者の妄想力をこそ褒めるべきでしょうか。
なんだかよく分からない部分もあるけれど、この妄想世界も青春であることには違いありません。
社会人になってから振り返ってみれば、頭を抱えてのたうちまわってしまいそうな青春ですが、そんなふうに阿呆を突き詰められるのも学生の特権。
自尊心ばかり強くて、貧乏で、時間だけはたっぷりある。
そんな愛すべき大学生たちの青春の日々が、社会に出てずいぶん経った私には、やっぱりうらやましく感じられます。
たとえどんなに阿呆でも。


森見さんの文章は文体が軽くなく、むしろ重々しいので、決して読みやすいとは言えないと思いますが、阿呆に突っ走った内容を軽くなく、妙に重厚なように見せているのが面白いと思います。
好き嫌いは分かれるかなぁとは思いますが、ハマると癖になりますね。
森見さんにはこれからも阿呆な大学生たちの青春を追いかけ続けてほしいものです。
☆4つ。