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tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『キケン』有川浩

キケン (新潮文庫)

キケン (新潮文庫)


ごく一般的な工科大学である成南電気工科大学のサークル「機械制御研究部」、略称【キケン】。部長*上野、副部長*大神の二人に率いられたこの集団は、日々繰り広げられる、人間の所行とは思えない事件、犯罪スレスレの実験や破壊的行為から、キケン=危険として周囲から忌み畏れられていた。これは、理系男子たちの爆発的熱量と共に駆け抜けた、その黄金時代を描く青春物語である。

有川浩さんが送る、青春爆発ストーリー。
いや比喩じゃなく、本当に爆発しています(笑)
有川さんらしい勢いのある文章と、物語の内容が非常にマッチしていました。


99%男子校、という女っけに乏しい成南電気工科大学の中でも最も男らしい(?)部活、機械制御研究部は、略して「キケン」と呼ばれていました。
…が、キケンなのは名前だけではなかった!
部長の2回生・上野は「成南のユナ・ボマー」という異名を持つ、自分で爆弾を作ってしまう、犯罪者すれすれのとても危険な男だったのです。
一見まともな副部長の大神も「名字から『魔』という一文字を隠した男」という二つ名あり。
この2人の危険人物に勧誘されて「キケン」に入部することになった新入生の元山と池谷を待ち受ける、キケンで楽しい青春の日々とは――?


ライトノベル出身の有川浩さんの作品の中でも、一番エクスクラメーションマーク(!)の使用率が高い作品なのではないでしょうか。
男子大学生たちの無駄な(?)勢いそのままに、いつも以上に文章にも勢いがあったように思います。
おバカで騒がしい大学生たちの青春小説というと、森見登美彦さんや万城目学さんの作品が思い浮かびますが、有川さんは女性だからか、「おバカ」ばかりではなくちゃんと個々のかっこいいところも描いています。
部長の上野は危険人物であまのじゃくな性格だけど、卑怯なことや人としての道に外れるようなことはしません。
副部長の大神は暴走しがちな上野にブレーキをかけつつ、しっかり後輩たちを指導して、かわいい女の子と接近するチャンスにもがっついたりはしません。
また、あまり詳しくは描かれていませんが、「キケン」は部活としてもロボット大会などできちんと成果を出しています。
だからこそ、無茶苦茶なことをやってはいても、大学側からも部活動として認められ、伝統を保っていけているのでしょう。
部員たちの一体感というか団結力も素晴らしいですが、上野や大神が人格的に難のある人物だったらそういう集団としてのまとまりも生まれなかったはずです。
言動が破天荒でも、越えてはいけない一線はちゃんとわきまえていて、人間としての魅力は失っていない。
有川さんの作品はそういう人物が多いので、とても気持ちよく読めるのがいいと思います。


ストーリーとしては連作短編集的にいくつかのエピソードをつないで1年少々の日々を描いていますが、学園祭の話が一番面白かったです。
たかが学祭でここまでやる!?という超本格派のラーメン屋台がキケン恒例のだしもの。
喫茶店とはいえ飲食店が実家という元山が加わったことにより、その本格度はさらに上昇します。
「本気で遊ぶ」がコンセプトのキケン。
伝説の味を作り出すために試行錯誤を繰り返し、部員全員のチームワークで超多忙なラーメン屋台運営をこなし、人気ラーメン店も真っ青の人気ぶりと売り上げを叩きだす。
その様子にはなんだかすがすがしいものを感じ、また、学生のうちにプロも顔負けの飲食店運営という経験を楽しみながら積んでいる部員たちがうらやましいと思いました。
実際、キケンのメンバーたちはロボットを作ったり土木作業(!?)をやったりと、実務に役立つスキルもしっかり部活を通して身に付けていて、社会に出てからも活躍するんだろうなという頼もしさがあります。
女子が「男子の世界」はこうあってほしいと思うまさにそのままの世界というか、ちょっと覗いてみたいなぁと思わせる楽しい世界、それがキケンでした。


そんな勢いのある作品ですが、最後はちょっとしんみりした気分にさせられました。
そう、学生時代がどんなに楽しかったかは、まさに楽しんでいる最中ではなく、社会人になってしばらく経って、懐かしく振り返ってみた時に初めて分かるようになるのです。
それはほとんどの大人が共感できる感覚なのではないかと思います。
私も自分の学生時代を思い出して、ちょっとノスタルジックな気分に浸りました。
ラブコメもいいけれど、たまにはこういう男くさい話もいいですね。
とはいえ最後はしっかりラブコメっぽくなっていましたが。
☆4つ。