tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『栞子さんの本棚 ビブリア古書堂セレクトブック』

栞子さんの本棚  ビブリア古書堂セレクトブック (角川文庫)

栞子さんの本棚 ビブリア古書堂セレクトブック (角川文庫)


ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズ(アスキー・メディアワークス刊)のオフィシャルブック。作品中で紹介されている12本の古今東西の名作タイトル(長編は一部、短編は全篇)を収録。「ビブリア古書堂」店主・栞子さんが触れている世界を体感できる、ビブリアファン必携の1冊。今では手に入りにくい作品や、冒頭を読んでみたいという欲張りな方にオススメです。巻末には、三上延氏の書き下ろしエッセイを掲載。

ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズで作中に登場した作品を集めたアンソロジーです。
長編はどうしても全文掲載というわけにはいかないので一部抜粋という形ではありますが、それでも各作品のエッセンスが十分に感じられ、なかなか面白いブックガイドになっています。
もともとアンソロジーというのは、いろんな作家の作品が1冊で楽しめて、新たな読書の扉を開く機会になるところが一番の魅力だと思っています。
それに加え、このアンソロジーの場合は今では手に入りにくい作品も収録されているというのがうれしいところ。
私は「ビブリア」本編で登場した時に気になったロバート・F・ヤングの「たんぽぽ娘」が目当てで読みました。
緻密な伏線が隠されているSF作品の「たんぽぽ娘」ももちろんよかったですが、他にもなかなか興味を惹かれる作品があって、収穫だったなぁとうれしく思っています。


昔から好きな宮沢賢治の「春と修羅」からは、国語の教科書にも載っていた(今でも載っているのでしょうか?)「永訣の朝」が収録されていて、久々に宮沢賢治の透明感ある世界や岩手の方言を交えた言葉のリズムを味わうことができました。

おまへがたべるこのふたわんのゆきに
わたくしはいまこころからいのる
どうかこれが天上のアイスクリームになって
おまへとみんなとに聖い資糧をもたらすやうに
わたくしのすべてのさいはひをかけてねがう


278ページより

この最後の5行がすごく好きなのです。
学生時代にいいと思ったものは、やっぱり今も変わらずいいと思えるものですね。
「春と修羅」からは「真空溶媒」も収録されていて、こちらもよかったです。
自然描写の中に「リチウム」とか「無水亜硫酸」とかの化学用語(?)が散りばめられているのがなんだか不思議な感じで面白いと思いました。
詩ならではかと思いますが、言葉のテンポやリズムもよくて、じっくり味わいたい一編でした。


それから、もうひとつとても面白いと思ったのが坂口三千代の「クラクラ日記」。
坂口安吾の奥さんによる、なかなか赤裸々なエッセイです。
当時の風俗をうかがえる描写はもちろん、文壇やジャーナリズムの世界を垣間見ることもできます。
坂口三千代自身は、作家の妻だったり文壇バーをやっていたりしたものの別にプロの物書きでも何でもないようですが、それでも文章も読みやすくて興味深い内容なので、たちまち引き込まれました。
これはできることなら全編を読んでみたいものです。
あと、作中で触れられていた安吾の「桜の森の満開の下」も、一度読んだことがあるのですがもう一度読んでみたくなりました。
確か青空文庫でも読めるのですよね。
早速今度の休みにでも読んでみよう。


全収録作品は以下の通りです。
抜粋が多いので読み応えという点では物足りないかもしれませんが、「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズから生まれた、なかなか面白い企画でした。
☆4つ。


「それから」 夏目漱石
「ジュリアとバズーカ」 アンナ・カヴァン
「落穂拾い」 小山清
「サンクチュアリ」 フォークナー
せどり男爵数奇譚梶山季之
「晩年」 太宰治
「クラクラ日記」 坂口三千代
「蔦蔓木曽棧」 国枝史郎
「ふたり物語」 アーシュラ・K・ル・グイン
たんぽぽ娘」 ロバート・F・ヤング
「フローテ公園の殺人」 F・W・クロフツ
「春と修羅」 宮沢賢治