tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『オブ・ラ・ディ オブ・ラ・ダ 東京バンドワゴン』小路幸也


東京下町で老舗古書店“東京バンドワゴン”を営む堀田家は、四世代の大家族。勘一のひ孫・花陽は受験生になり、研人は中学校に入学、かんなと鈴花もすくすく育っている。ひとつ屋根の下、ふしぎな事件が舞い込んで、今日も一家は大騒ぎ。だが近ごろ、勘一の妹・淑子の体調が思わしくないようで…。ご近所さん、常連さんも巻き込んで、堀田家のラブ&ピースな毎日は続く。大人気シリーズ第6弾。

1年に一度、春の文庫化と新作の刊行がすっかり恒例になった「東京バンドワゴン」シリーズ。
私も毎年春のお楽しみとして読み始めてから、早くも6作目。
サザエさんやドラえもんなどと違って、作中でもしっかり時間の流れるこのシリーズなので、おなじみの家族と1年ぶりに再会できたといううれしい感覚になれます。


とはいえ6作目となると単純計算で5年の月日が経っているわけですから、細かいところは忘れているところもあります。
でも、巻頭の家系図と、語り手のサチおばあちゃんによる丁寧な説明で、いつもあっという間にいろんなことを思い出して話の中に入っていくことができます。
シリーズを途中から読む人でも抵抗なく物語を楽しめるのではないでしょうか。
もちろんシリーズものは最初から読んだ方がいろいろと面白いものですが…。
こういうシリーズものはマンネリになりがちという弱点がありますが、この「東京バンドワゴン」ではそのマンネリ感さえ魅力に感じられます。
東京の下町で古書店を営む大家族が、日々の生活の中でさまざまな事件や謎に遭遇し、ご近所さんや親戚、お店の常連さんたちを巻き込みながら騒動を収めていくというパターンは、1作目から全く変わっていません。
ですが、作中でも時間が流れているので、家族の中にも主に子どもたちの成長による生活の変化があり、今後はどうなっていくのだろう?という興味が尽きることがないのです。
また、このシリーズの主人公である堀田家の面々が全員個性的で、その日常生活や人間模様を眺めているだけでも面白いという安定感に加え、めまぐるしいほど次々にいろんな騒動が勃発するので飽きが来ません。


今作もいろんな出来事が起きて相変わらずの大騒ぎでしたが、どの騒動の後でも、必ずあたたかくさわやかな気分になれるのがこのシリーズのよいところ。
その根底に流れているものは「LOVE」です。
堀田家の一員で伝説のロッカーと呼ばれるミュージシャン、我南人(がなと)が口癖のように繰り返すこの「LOVE」という言葉が、「東京バンドワゴン」シリーズのテーマそのものです。
堀田家の人々はさまざまな事件や謎に遭遇し、それを解決していきますが、解決のカギになっているのも「LOVE」なのではないでしょうか。
さまざまな事情を持った人々の、その事情や思いに耳を傾け、受け入れる。
過去の罪を赦し、背負い続けてきた荷物を降ろせるよう取り計らう。
時には厳しく説教し、断固として拒絶するようなこともある。
堀田家の人々が見せるそうした態度の源になっているのはすべて「LOVE」なのだと思います。


物語の最後には、悲しい別れもありました。
けれども、同時に新しい希望も誕生しました。
そんなふうにして、人生は続いていく(Life goes on)。
ビートルズの曲のように、明るく軽快な気持ちで読み終えました。
こんな楽しみが1年に1回、必ず味わえるというのは幸せなことです。
☆4つ。