tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『ビブリア古書堂の事件手帖4 ~栞子さんと二つの顔~』三上延


珍しい古書に関係する、特別な相談――謎めいた依頼に、ビブリア古書堂の二人は鎌倉の雪ノ下へ向かう。その古い家には驚くべきものが待っていた。
稀代の探偵、推理小説作家江戸川乱歩の膨大なコレクション。それを譲る代わりに、ある人物が残した精巧な金庫を開けてほしいと持ち主は言う。
金庫の謎には乱歩作品を取り巻く人々の数奇な人生が絡んでいた。そして、迷宮のように深まる謎はあの人物までも引き寄せる。美しき女店主とその母、謎解きは二人の知恵比べの様相を呈してくるのだが――。

現在月9ドラマ放映中の「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズ第4巻。
ドラマの方は見ていないのですが、ドラマ化が原作に影響を与えることを少し心配していました。
けれどもそれは全くの杞憂でした。
シリーズの魅力は全く薄れることなく、それどころかさらにパワーアップした4作目を楽しむことができました。


東日本大震災が起こり、ようやく当初の混乱が収まってきた頃、10年も消息不明だった栞子の母・智恵子が突然姿を現します。
彼女の意図がつかめずにいたところに、当の智恵子を指名して「古書に関する特別な相談」を受けてほしいという依頼がビブリア古書堂に持ち込まれます。
その相談とは、故人が遺した金庫の鍵と暗証文字を手に入れて金庫を開けてくれたら、江戸川乱歩の貴重な本のコレクションをビブリア古書堂に売るというものでした。
コレクションを買い取りたいというだけでなく、金庫の中にあるという乱歩に関する大変貴重な品が何なのかにも興味を惹かれ、栞子はその依頼を引き受けます。
ところが古書に関する謎はやがてその持ち主の意外な一面を浮かび上がらせ、さらには智恵子までもが関わってくることに…。


3作目までは連作短編集という形式で、取り上げられる作家や作品も複数に上っていましたが、今回は江戸川乱歩ひとりに絞られた長編になっています。
そこがこれまでとは大きく違うところですが、面白さは全く変わりありませんでした。
もともと連作短編集は通して読めば長編のような連続性のある作品形式ですから、シリーズ途中で長編に変わっても違和感がないのは当然です。
そして、今作でもっとも感心したのは、伏線の張り方の見事さでした。
この4巻の中だけでも、伏線がいくつも張られていることはしっかり感じ取れますが、3巻以前にもこの巻の内容を意識して張られていた伏線があったことが分かります。
智恵子と栞子を毛嫌いするヒトリ書房の店主・井上の存在、彼と智恵子の間に昔あったこと、智恵子が突然栞子たちの前に姿を現した理由…そして東日本大震災の直後という時期設定までもが、乱歩の古書にまつわる謎というこの作品の中心となる謎に見事につながっています。
読み進めるうちにいくつもの点がどんどん結びついて一つの線になっていくのが、とても気持ちよかったです。
乱歩にまつわる貴重な何かを収めた金庫の鍵がどこにあり、暗証文字は何か、そしてその「貴重な何か」とは何なのか…。
これだけでも十分ミステリとして魅力的ですが、そこに智恵子の謎の動きや、五浦と栞子の恋の行方まで関わってきて、物語の「濃さ」は過去最高でした。


それに、この作品は個人的にもとても魅力的でした。
作中に、どの世代にも『少年探偵団』シリーズが自分の推理小説の原体験だという人がいるのかもしれない、という文がありますが、まさしく私がその一人だからです。
私が人生で一番本を読んでいた小学生の頃、図書館に通ってはポプラ社の「少年探偵団」シリーズを借りて読み漁っていたものです。
実はシリーズ途中で読むのをやめてしまったのですが、それでも少なくともシリーズの8割がたは読んだはず。
その後ルパンやホームズなども読みましたが、一番印象に残っているのはやはり「少年探偵団」シリーズです。
今回の栞子さんの謎解きを通して、全く知らなかった乱歩の世界の奥深さを知ることができました。
大人向けの乱歩作品は読んだことがないので、読んでみようかなと思います。


それにしても、ラストがまた非常にうまい終わり方ですね。
こんなに気になるところで終わられたんじゃ、次の巻も読まずにはいられないに決まってるじゃないですか。
作者の術中にまんまとはまってしまっているのがちょっと悔しいですが、次巻を楽しみにしています。
☆5つ。