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『東の海神 西の滄海』小野不由美

東の海神 西の滄海  十二国記 (新潮文庫)

東の海神 西の滄海 十二国記 (新潮文庫)


国が欲しいか。ならば一国をやる。延王尚隆(えんおうしょうりゅう)と延麒六太(えんきろくた)が誓約を交わし、雁国(えんこく)に新王が即位して二十年。先王の圧政で荒廃した国は平穏を取り戻しつつある。そんな折、尚隆の政策に異を唱える州侯が、六太を拉致し謀反を起こす。望みは国家の平和か玉座の簒奪(さんだつ)か──二人の男の理想は、はたしてどちらが民を安寧(やすらぎ)に導くことになるのか。そして、穢れを忌み嫌う麒麟を巻き込む争乱の行方は。

十二国記シリーズ第3作。
「エピソード0」の『魔性の子』も含めて、これまで4作品読んできましたが、私はこの作品が一番好きになりました。
くすりと笑える場面やせりふもあれば、とても重い言葉もあり、感動する場面もあり…一番物語に絶妙な緩急があったと思います。


今回の舞台は雁国。
『月の影 影の海』で陽子を助けてくれた延王(尚隆)と延麒(六太)の物語です。
この2人のことは初登場から気になっていたので、今回スポットライトが当たって、その過去も出会いも暮らしぶりも知ることができてとてもうれしく思いました。
前の王は道を外れ、雁国は荒廃し、民は苦しみました。
その影響がまだ色濃く残る中で、人々の期待を背負って新王として即位した尚隆。
しかし彼はお気楽な性格で、政務をさぼって下界で遊んだりしています。
そんな中、元州を治める切れ者の州候に謀反の動きが見え始めます。
民を治める王にふさわしいのは尚隆なのか、元州候なのか。
この2人の人となりや言動が丁寧に描かれ、その違いが明らかになっていくことで、人の上に立ち国を治めるにふさわしい人物とはどういうものなのかというのがはっきりと示されます。
ファンタジーという架空の世界を舞台にしながら、そこに描かれる物語はとてもリアルで説得力があります。
王のために民が存在するのではなく、民のために王が存在するという考え方に、強く共感しました。
この考え方は、きっとどんな時代のどんな国の為政者とその民にも当てはまる考え方だと思います。


尚隆と六太の、王とそれを選んだ麒麟という関係を超えた絆にも感動しました。
麒麟は天命によって王を選びます。
王は即位して仙籍に入ると同時に寿命というものがなくなり、長い年月にわたって王として君臨することも可能になりますが、王の道に外れるようなことをすれば麒麟が病み、麒麟が病めば王も倒れることになります。
王と麒麟の関係はもともとこのような一蓮托生といえるものですが、尚隆と六太の関係はそれ以上に深い結びつきがあるように思えます。
それは尚隆の王になる前の経験と、六太が尚隆を王に選ぶまでの経緯が大きく影響しているのだろうなと思いました。
戦乱の世に生まれ、すべてを失った経験を持つ尚隆だからこそ、不真面目なところもありながら愚鈍ではない王になれたのだろうし、そういう尚隆だからこそ六太は過たず王に選び、麒麟としての責務を果たした。
物語終盤、尚隆に一国を与えるという約束を違えなかった六太に対して、尚隆が豊かで安らかな一国を返すと約束する場面に、2人の強い結びつきと雁国復興の希望が見えて、胸を打たれました。


これで十二国のうち三国の物語を知って、どんどんシリーズものとして面白くなってきた感があります。
巻末解説の養老孟司さんがいいことを書いています。
曰く、「ファンタジーというのは長くなるものなのです。その世界の約束事をせっかく理解したのに、そこから出ちゃうのは、もったいないじゃないですか。」
本当にその通り。
だから、すっかりいい大人になった今でも、ファンタジーは決してやめられないのです。
☆5つ。