tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『陽だまりの彼女』越谷オサム

陽だまりの彼女 (新潮文庫)

陽だまりの彼女 (新潮文庫)


幼馴染みと十年ぶりに再会した俺。かつて「学年有数のバカ」と呼ばれ冴えないイジメられっ子だった彼女は、モテ系の出来る女へと驚異の大変身を遂げていた。でも彼女、俺には計り知れない過去を抱えているようで―その秘密を知ったとき、恋は前代未聞のハッピーエンドへと走りはじめる!誰かを好きになる素敵な瞬間と、同じくらいの切なさもすべてつまった完全無欠の恋愛小説。

朝日新聞読書面の書評を読んで、気になっていた作品。
今夏の「新潮文庫の100冊」に入っていたので、ブックカバーをもらうためにもちょうどいいなと思って購入しました。
ちなみに現在応募したブックカバーの到着を、首を長くして待っているところです(笑)


交通広告代理店の若手営業マンである奥田浩介は、上司や先輩とともに新規クライアントである新興下着メーカーとの打ち合わせに赴きます。
その場に相手先の担当者として出てきたのは、中学時代の同級生、渡来真緒でした。
偶然の再会に驚く2人。
しかも、真緒は中学時代にどうしようもないバカでいじめられっ子だったのが嘘のように、聡明で仕事のできる美人に成長していました。
やがて仕事外で2人で会うようになり、愛を深め、結婚して夫婦になります。
楽しく幸せな新婚生活を送る2人の関係は順調かのように思われましたが…。


中盤までは、中学時代の甘酸っぱい初恋の思い出を含む、甘々ラブストーリー。
バカップルか!と思わず突っ込みたくなるような、甘い言葉や場面が満載で、たとえば有川浩さんのラブコメ作品が好きな人なんかはきっと楽しく読めることでしょう。
私もニヤニヤしそうになりながら楽しませてもらいました。
優しい浩介に甘え上手な真緒は、相性もバッチリで、作中に「運命の人」という言葉が出てきますが、そんなちょっとくすぐったいような言葉もぴったり来るような、可愛らしいカップルだと思います。
とはいえ、主人公カップルが2人ともそれなりに大人だからか、単に勢いだとか若気の至りだとかではなく、真剣にお互いのことを想い合って、相手の欠点も過去もすべてを受け入れる覚悟で向き合っている様子が描かれ、好感が持てます。


ところが、普通の恋愛小説だと思って読んでいると、終盤の展開に腰を抜かすことになります。
真緒が養子であり、13歳以前の記憶を失っているというちょっと衝撃的な事実が中盤に明かされますが、ここでの衝撃はまだ序の口。
ミステリ的な展開を見せる作品だということは、前述の書評を読んで知ってはいましたが、それでもこういう展開になるとは予想がつきませんでした。
この手の話には拒絶反応が出てしまう人もいると思いますが、私は好みのタイプの話です。
切なくて、悲しい話でもあるのですが、ラストはほんわか温かくて、読後感は悪くありません。
読み終わると、途中までの甘い甘いストーリーの中に、たくさんの伏線が巧みに隠されていたことに気づき、なるほどそういうことだったのかと納得し、なんだかすっきりしました。
タイトルの「陽だまりの彼女」がこの作品にぴったりの良タイトルだということも読後に分かり、感心しました。
ついついネタバレで語りたくなってしまいますが、このブログでは自重しておきます。


あまり予備知識なしに読んだ方が楽しめる作品だと思います。
甘くて少し切ない恋愛小説だと思ってどうぞ。
☆4つ。