tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『アリアドネの弾丸』海堂尊

アリアドネの弾丸(上) (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

アリアドネの弾丸(上) (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)


アリアドネの弾丸(下) (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

アリアドネの弾丸(下) (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)


大学病院内で再び殺人事件が!大人気メディカル・エンターテインメント、「バチスタ」シリーズ第5弾です。不定愁訴外来の田口公平はいつものように高階病院長に呼び出され、なんとエーアイセンターのセンター長に任命されてしまう。東城大学病院に体内を撮影する医療器具・MRIの新型機種、コロンブスエッグが導入され、田口は技術者の友野に説明を受けていた。しかしその矢先、MRIの中で友野が亡くなった。死因は不明、過労死と判断されたが……。『このミステリーがすごい!』大賞受賞作家による本格ミステリー。

田口&白鳥コンビが活躍する、「バチスタ」シリーズ第5弾。
もう5作目になるんだなぁと驚くと共に、7月に刊行された最新作『ケルベロスの肖像』でついに完結したということを知って、ゴールが見えてきたことがうれしいような、少しさみしいような気持ちです。


「腹黒タヌキ」こと高階病院長の陰謀(?)により、リスクマネジメント委員会の委員長に就任したり、厚生労働省の医療事故調査委員会に出席したりと、望まぬ活躍を強いられている神経内科不定愁訴外来の田口。
今回は東城大学病院にエーアイセンターが設置されることになり、その初代センター長を拝命する羽目に。
ところが、縦型MRI、通称「コロンブスエッグ」が搬入された矢先に、MRIの技術者である出入り業者の働き者、友野君が謎の死を遂げます。
死因不明のまま、事件性はないとされた友野君の死でしたが、その後同じコロンブスエッグが設置された部屋で、殺人事件が起こります。
犯人は現場で気を失って倒れていた高階病院長だと言う警察。
しかし、論理的に考えると高階病院長が犯人ではありえないと考えた白鳥は、田口とともに高階病院長の冤罪を晴らそうと試みます。


1作目と2作目はミステリ色が強かったものの(もともと「このミステリーがすごい!」大賞受賞作なのですから当然ですが)、3作目と4作目は会議での議論の場面が多く、「事件は会議室で起きているんだ」状態になっていました。
会議の場面が延々続いても、それはそれで手ごわい相手を白鳥たちが論理的な議論で撃破していく様が面白く、作品としてもよかったのですが、今回5作目にして原点に立ち返るかのようにミステリ度が上がったのは、やはりミステリ好きとしてはうれしく思いました。
超強力な磁場を発生するMRIのそばで起こった殺人事件という、病院を舞台にした作品ならではの設定と、現役の医師ならではの専門的な視点が全編に散りばめられていて、非常に読みごたえがありました。
専門用語が連発されるのでちょっと難しいようにも感じましたが、謎解きに関わる重要なところは噛み砕いて何度も丁寧に説明されており、しかもその説明が白鳥や島津と田口の軽口を交えた軽妙な会話の中でなされているので、私のようなど素人にも読みやすくなっています。
タイムリミットが設定された謎解きの展開もスリリングで、白鳥が論理で犯人を追いつめていく爽快感もありました。
ミステリとしての面白さを十分に考え抜いて書かれた作品だと思います。


ミステリ色が濃くなっても、「死因不明社会」についての作者の考えや、司法の仕組みのおかしな部分、権力構造の滑稽さなどもしっかりと書かれていて、読みながらいろいろ考えさせられるのも、これまでのシリーズと同じです。
相変わらず高階病院長に厄介な仕事を押し付けられている田口や、嫌味でムカッとするところもありながらなぜか憎めない白鳥など、おなじみのキャラクターも絶好調です。
次の完結作で、一体彼らや東城大学病院がどのような結末を迎えているのか、今から楽しみです。
☆4つ。