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tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『宵山万華鏡』森見登美彦

宵山万華鏡 (集英社文庫)

宵山万華鏡 (集英社文庫)


一風変わった友人と祇園祭に出かけた「俺」は“宵山法度違反”を犯し、屈強な男たちに捕らわれてしまう。次々と現れる異形の者たちが崇める「宵山様」とは?(「宵山金魚」)目が覚めると、また宵山の朝。男はこの繰り返しから抜け出せるのか?(「宵山迷路」)祇園祭宵山の一日を舞台に不思議な事件が交錯する。幻想と現実が入り乱れる森見ワールドの真骨頂、万華鏡のように多彩な連作短篇集。

まさにこの時期にぴったりのお話。
京都の夏を賑やかに彩る祇園祭宵山
その夜に起こる不思議でちょっと怖くて幻想的なできごとを描いた連作短編集です。


妖怪なんだかなんなんだか、得体の知れない生き物(?)が登場したり、不思議な空間が突如現れたり、と、非常に森見さんらしい作品だと思います。
連作短編集なので、それぞれの短編には共通の登場人物が出てくるのですが、ひとつひとつのお話は少しずつテイストが違っています。
不思議で幻想的な話もあれば、怪談めいた怖い話もあり、ばかばかしく笑える話もあります。
少しさみしいような、切ないような気持ちになる話も。
そのテイストの違いが、タイトル通り万華鏡のよう。
次々に現れる異なる模様がとても鮮やかで、飽きさせません。
一番最初の、妹視点のお話「宵山姉妹」が、ラストの「宵山万華鏡」で今度は姉視点のお話となって再び現れるという構成も、ぐるっと一周回ってきたという感じで、これまた万華鏡を思い起こさせるものでした。
「万華鏡」はこの短編集全体を通して重要なアイテムとして登場するのと同時に、この物語そのものを象徴するイメージでもあるのだなと思いました。


個人的には森見さんの作品の中では「阿呆な大学生」を描いたものが好きです。
だから「宵山劇場」はとても面白く、楽しんで読みました。
森見さんの他の作品ともなんとなくつながっているのが、森見作品のファンとしてはうれしいですね。
その一方で、「宵山回廊」の少々怖くて、さみしく切ない感じもなかなかいいし、「宵山迷路」もこれはSFなのかと思うような設定で、森見さんの作風に幅が出てきたようにも感じられました。
いろんな森見テイストが味わえて、なかなかお得な短編集だと言えるかもしれません。
もちろん、舞台の京都の街や祇園祭の雰囲気も丁寧に、そしてリアルに描写されていて、そうそう、祇園祭って賑やかで蒸し暑くて人が多くて、楽しいんだけど疲れるよね、などと、自分自身の祇園祭の思い出がよみがえってちょっと楽しい気分にもなれました。
子どもがお祭りの人ごみの中で、迷子になってしまわないかとか悪い人に連れて行かれないかとか、そういう不安にとらわれる気持ちも分かる気がするし、祭りの華やかな喧騒から少し離れた、奥まった路地の薄暗く静かでじめじめした感じも、遠い昔に体験したことがあるような気がして、なんだか懐かしいような気持ちもします。
幻想と現実とが入り混じったような不思議なできごとの数々は、京都という古い街の、祇園祭という歴史あるお祭りならばこそ、本当に起こりうるのではないかと思えてしまいます。
それがなんだか愉快で、祇園祭に行きたいという気持ちにさせられます。


ファンタジーのような、ホラーのような、SFのような、コメディーのような。
宵山の日に立ち並ぶさまざまな露店のように、いろんな味わいが楽しめる素敵な作品だと思います。
☆4つ。