tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『鍵のかかった部屋』貴志祐介

鍵のかかった部屋 (角川文庫)

鍵のかかった部屋 (角川文庫)


元・空き巣狙いの会田は、甥が練炭自殺をしたらしい瞬間に偶然居合わせる。ドアにはサムターン錠がかかったうえ目張りまでされ、完全な密室状態。だが防犯コンサルタント(本職は泥棒!?)の榎本と弁護士の純子は、これは計画的な殺人ではないかと疑う(「鍵のかかった部屋」)。ほか、欠陥住宅の密室、舞台本番中の密室など、驚天動地の密室トリック4連発。あなたはこの密室を解き明かせるか!?防犯探偵・榎本シリーズ、第3弾。

防犯探偵シリーズ第3弾。
いやはや、この作品が月9ドラマ化と聞いたときはビックリしました。
どう考えても月9のイメージとは程遠いですからね…。
最近は恋愛ものは受けないのでしょうか。
「謎解きはディナーのあとで」と同じ系統と言えばそうなのかもしれませんが、このシリーズは密室もので、ミステリとしてもマニアックな感じがするので、ドラマの主な視聴者であると思われる嵐(大野君)ファンの方々がどう受け止めているのかちょっと心配です(^_^;)
ドラマを見ていない私がどうこう言うことでもありませんが。


さて、シリーズ第3弾は、第2弾と同じく短編集になっています。
個人的には長編の方が好きなので、第1弾のような長編の続編が出てくれたらうれしいのですが、短編も短編でなかなか楽しんで読んでいます。
このシリーズのすごいところは、ずばり密室ものに限定しているというところだと思います。
密室トリックはもはや出尽くしているなどとも言われる中で、密室に限定したネタをこれだけ出せるところがすごいなぁと素直に感心しています。
シリーズを通して、いろんな密室が出てきましたが、今回一番アイディアに感心したのは、欠陥住宅を舞台にした密室殺人の話「歪んだ箱」でした。
家全体が傾いていたり、雨漏りがしていたり、ドア枠の歪みのせいでドアをきちんと閉めることが困難だったりという欠陥住宅ならではの設定を完璧に活かしきった密室トリックで、面白いことを考えるものだなぁと感心しきりでした。
トリックの仕組みもこの作品が一番わかりやすかったと思います。
「佇む男」「鍵のかかった部屋」の2作品はどちらも「目張りをされている密室」という設定ですが、設定が複雑すぎて分かりにくいトリックになっていたのが残念でした。
ラストの「密室劇場」はトリックはそこそこ本格派ながら、ノリは完全にバカミスです。
第2弾の『狐火の家』にも同じ劇団が舞台の話が収録されていましたが、正直に言うと今回の「密室劇場」はギャグネタが不発気味で、前作と同じ劇団ネタを引っ張らなくてもよかったのではないかと思いました。


ところでこのシリーズの魅力は、主人公の榎本と純子のかけあいの面白さにあると思っています。
防犯コンサルタントを名乗りながら、実は本職は泥棒そのものではないのか?という疑惑のある榎本は、今回「鍵のかかった部屋」で登場するプロの空き巣狙いと「古い友人」であると語っています。
ますます胡散臭さが増してしまった榎本ですが、この榎本の得体の知れなさ、不気味さがいい味を出しています。
そうかと思えば「歪んだ箱」では警察の要請を受けて捜査に協力していたりしますし、密室トリックの謎を解き明かして犯人の残酷さに憤ったりするところは、たとえ本職が泥棒でも(!?)根っからの悪人というわけではないのかなと思えて、嫌いにはなれない人物なのです。
一方、弁護士の青砥純子は、1作目では美人で仕事のできる弁護士というイメージだったのが、だんだん壊れていっているのが不憫というか親しみの持てるところです。
今回も存分に迷推理を披露しては榎本に一刀両断されていますが、美人弁護士がそんなふうにちょっと間抜けな姿をさらしているというのは、想像してみるとなかなか笑えます。
実はこのシリーズのユーモアミステリ的側面を支えているのは、胡散臭い榎本ではなく美人の純子だというのが面白いところです。


ドラマ化で弾みがついた(?)このシリーズ、この先も続編が発表されると期待していていいのでしょうか。
密室もの縛りはなかなかネタ出しが大変ではないかと思いますが、貴志さんにはぜひ頑張っていただきたいところです。
☆4つ。