tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『Eat, Pray, Love』Elizabeth Gilbert

Eat, Pray, Love. Movie Tie-In

Eat, Pray, Love. Movie Tie-In


A, funny, tender, utterly beguiling story about a woman's search for happiness

久しぶりに洋書を読みました。
昨年公開された映画「食べて、祈って、恋をして」の原作であり、著者自身の1年間の旅を描いたエッセイ作品です。
実は昨年の3月に購入していたのですが、ずっと読めずにいたのをようやく手に取ったのでした(^^;)


30代半ばのライターである著者・リズは、夫との泥沼の離婚劇に疲弊し、すべてを失ってボロボロになった末に、1年間の休暇をとって旅に出ることにします。
まずはイタリアへ、イタリア語を勉強し、おいしいものを食べる旅を。
次にはインドへ、アシュラムで瞑想し、祈る旅を。
最後はインドネシアのバリ島へ、魅力的な人々と出会い、自分自身と他の誰かを愛する旅を。
偶然にもすべて「I」から始まる3つの国への、自分を探し、幸せを求める旅の記録が、一人称「I」で綴られている作品です。


もちろん英語で書かれていますし、非常に分厚い本ですが、英語は平易で、難しい単語も構文もほとんど出てこないので、とても読みやすいです。
私は英文を読む速度を上げたいという目標があったので、多少知らない語彙があっても辞書なしでとにかく一気に読み進めました。
文体も一人称のエッセイですし、程よいユーモアとウイットの効いた比喩が面白く読めました。
ニューヨークでライターとして成功しているキャリアウーマンで、夫も家もあって…という、私とはあまり共通点のない著者なので、共感できるかどうか少し不安でしたが、意外にも共感できる部分が多かったのも読みやすさの理由の一つでした。
共感できたのは著者が自分に起こった出来事やその時の心情を、包み隠すことなくすべてを開けっぴろげに綴っているからだと思います。
仕事も夫も家も友人も、すべてを持っていて恵まれているように見えるキャリアウーマンでも、孤独感にさいなまれて夜中に眠れず泣いて過ごしていたり、いろんな不安や不安定さを感じているという等身大の女性の姿がありのままに書かれていて、なんだかホッとするような気持ちでした。
そんな「普通のアメリカ人女性」である彼女が異文化に触れて、さまざまな人との交流を通して、少しずつ傷を癒していき、立ち直っていく姿にも勇気付けられるように思いました。


旅行記ですからやはり旅の醍醐味のようなものが書かれている部分も楽しいです。
特にイタリアでの食べ物のおいしそうなこと…。
パスタにピザにティラミスにジェラート。
読んでいてとてもお腹がすきましたし、今すぐイタリアに飛んでいって食べたい!という気持ちに駆られました。
リズがイタリア語を学んでいく過程も面白かったです。
少しですがイタリア語の単語や表現も紹介されているので、ほんの少しイタリア語の勉強にもなるかもしれません。


インド編はアシュラムで瞑想したり祈ったりという修行体験が主で、私にはあまり馴染みのないスピリチュアル要素が興味深い一方で理解しづらく感じる部分もありました。
このアシュラムは宗教的な場所でありながら、特定の宗教に偏った場所ではないというのは興味深かったです。
そこで修行をする人たちの信仰する「神」が、キリスト教の神であれイスラムの神であれ関係なしにそれぞれの神と対話し、ひいては自分自身と向き合う場所であるというのは面白いなと思いました。


そしてインドネシア・バリ編は、ようやく自分自身の心のバランスを取り戻したリズが、ついに新しい恋をすることを自分に許すのですが、これがなかなか赤裸々に描かれていて、アメリカ人らしいというか何というか…とちょっと戸惑いながら読みました。
欧米と比べると貧しく、まだまだ男尊女卑思想が強いバリですが、バリの人たちには彼らなりの物事の考え方があり、彼らなりに幸せに、たくましく生きている様子もきちんと描かれていて、とても魅力的な国だなと思わされました。
これは、著者の偏見の混じることのないフェアなものの見方と書き方のおかげだと思います。
日本人としては同じアジアの国として理解しやすい部分もありますが、その一方でびっくりするような文化や思想もあり、とても興味深かったです。
特に、リズが親友になったヒーラーが、男性の不妊など「ありえない」バリにおいて、男性不妊が原因で子どもができない女性を妊娠させる方法と、その方法にまつわる考え方には、日本ではありえないだけに仰天する思いでした。
このような異文化を直に目にし、体験できる旅はいいものだなと、私も旅に出たくなりました。


作品の冒頭では離婚による心の傷が語られて少し暗いムードだったのが、旅を続けるうちに少しずつ不安や悲しみから解放され、最後はとても幸せなムードで終わるので、とても気持ちのよい読後感を味わえました。
旅先の文化も、街も、登場人物もみな魅力的に描かれて、読み応えのある旅行記だと思います。
☆4つ。