tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『ガリレオの苦悩』東野圭吾

ガリレオの苦悩 (文春文庫)

ガリレオの苦悩 (文春文庫)


“悪魔の手”と名のる人物から、警視庁に送りつけられた怪文書。そこには、連続殺人の犯行予告と、帝都大学准教授・湯川学を名指して挑発する文面が記されていた。湯川を標的とする犯人の狙いは何か?常識を超えた恐るべき殺人方法とは?邪悪な犯罪者と天才物理学者の対決を圧倒的スケールで描く、大人気シリーズ第四弾。

ガリレオシリーズの…これが4作目になるんですね。
ということは『聖女の救済』が5作目という数え方ですか。
ガリレオシリーズは短編と長編がありますが、どちらもそれぞれの楽しみがあっていいと思います。


しかし上に引用したあらすじ、これじゃ長編みたいですよね。
実際は『ガリレオの苦悩』は短編集です。
今回から新キャラクターが登場。
ドラマや映画で柴咲コウさんが演じていた新人刑事、内海薫です。
原作より先にドラマと映画で薫を知っていたので、ちょっと不思議な感じはしましたが、別に薫はドラマ用に作られたキャラクターというわけではないんですね。
まぁ3作目までのガリレオシリーズは理系ミステリということもあるかもしれませんが、どうも男性的でむさい雰囲気があったので、ここで若い女性キャラを出したのは正解かもしれません。
東野さんが映像化を意識していたかどうかは分かりませんが、映像化する際に華やかになりますし。
これまで湯川や草薙にはなかった女性ならではの視点が加わって、物語的にもぐっと幅が広がったと感じました。
ちょっと個性が薄い感じがしますが、これからの活躍が楽しみなキャラクターが増えたのはよかったと思います。


ストーリー的には、今回は膨らませれば長編にもなりそうな感じのものが多く、読み応えがありました。
第二章の「操縦る(あやつる)」は犯人の動機が印象的で、どこか『容疑者Xの献身』を思わせる話です。
「犯人の動機には興味がない」はずの湯川ですが、彼の人情的な一面が垣間見える話で好きです。
第四章の「指標す(しめす)」と第五章の「攪乱す(みだす)」は話の規模的には長編でもいけそうですが、あえて短編で書いているのが面白いと思いました。
第四章で登場するダウジングに関する湯川の見解、また第五章の犯人の正体と科学的なトリックについては、これぞガリレオシリーズの真髄とも言える理系ミステリらしいもので、楽しく読めました。
正直、科学に関する説明は、草薙や薫同様私もちんぷんかんぷんなのですが…。
だから正しい科学知識に基づく話になっているのかどうかは判断できませんが、少なくとも論理的ですし、湯川の、ひいては東野さんの科学に対する考え方を読むのは楽しいです。
あまり難しすぎず、東野さんの文章の読みやすさのおかげで、文系の私にも十分楽しめるのはありがたいことです。


そういえば、湯川のキャラクターの印象も、最初の2作とは若干変わってきたような印象がありますね。
シリーズは6作目の『真夏の方程式』まで出ていますが、まずは早く『聖女の救済』を読みたいものです。
文春さーん、文庫化待ってますよ!
☆4つ。