tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『家日和』奥田英朗

家日和 (集英社文庫)

家日和 (集英社文庫)


会社が突然倒産し、いきなり主夫になってしまったサラリーマン。内職先の若い担当を意識し始めた途端、変な夢を見るようになった主婦。急にロハスに凝り始めた妻と隣人たちに困惑する作家などなど。日々の暮らしの中、ちょっとした瞬間に、少しだけ心を揺るがす「明るい隙間」を感じた人たちは…。今そこに、あなたのそばにある、現代の家族の肖像をやさしくあったかい筆致で描く傑作短編集。

奥田英朗さんもハズレの少ない作家さんの一人だと思います。
現在朝日新聞朝刊で連載中の「沈黙の町で」も毎朝楽しみに読んでいます。


この『家日和』は家族をテーマにした短編集。
夫婦2人の家庭から子どものいる家庭まで、さまざまな家庭が描かれますが、何かの変化や出来事がきっかけで家庭のあり方や雰囲気が変わっていく様子が温かい眼差しで描き出されています。
ネットオークションにハマった専業主婦、夫の会社が倒産したことをきっかけに役割が逆転する夫婦、奥さんが出ていって一人暮らしに戻った夫、内職斡旋会社の営業マンにあらぬ欲望を抱いてしまう主婦、いきなり会社を辞めて起業する夫、ロハスに凝り始める妻…。
生活や、家族のあり方が変わるきっかけって、いろいろあるものです。
ほんのちょっとした変化が、家庭に大きな変化をもたらすこともあります。


個人的には冒頭の「サニーデイ」が面白かったです。
インターネットオークション、実は私は未体験なのですが、ちょっと面白そうと思ってしまいました。
ラストは胸が暖かくなるような、気持ちのいい話でした。
会社の倒産をきっかけに「主夫」業に目覚める夫の話「ここが青山」も面白かったですね。
社会はまだまだ伝統的な夫と妻の役割に囚われがちだけれど、実際のところ家事や育児に向いている男性もたくさんいるんだろうなと思います。
もちろんビジネスの世界で実力を発揮できる女性もたくさんいることでしょう。
会社の倒産、失業という非常事態によって開き直った部分もあるのかもしれませんが、固定観念に縛られなければどこにだって人が自分の個性や能力を発揮して生きていく道は見つかるのだろうなと思い、なんだか勇気付けられた気がしました。


ネットオークションだとかロハスだとか、最近のブームに鋭い視線を向け、批判的な目で書かれている部分もありますが、奥田さんの文章は基本的に温かいので、不快な気分になることがありません。
ユーモアがあるので笑って読めるのがいいですね。
1つだけちょっと切ない終わり方をする話もありましたが、基本的にはどれもハッピーエンドで、家族っていいなと思える話ばかりでした。
まさに幸せな家庭にあふれる暖かい空気のような読後感が味わえる作品だと思います。
☆4つ。