tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『RDG レッドデータガール はじめてのお使い』荻原規子


世界遺産に認定された熊野古道、玉倉山にある玉倉神社。そこに住む泉水子は中学三年まで、麓の中学と家の往復だけの生活を送ってきた。しかし、高校進学は、幼なじみの深行とともに東京の鳳城学園へ入学するよう周囲に決められてしまう。互いに反発する二人だったが、修学旅行先の東京で、姫神と呼ばれる謎の存在が現れ、さらに恐ろしい事件が襲いかかる。一族には大きな秘密が―。現代ファンタジーの最高傑作、ついに文庫化。

『空色勾玉』から始まる勾玉3部作の作者、荻原規子さんによる、新たなファンタジー作品。
日本を舞台にしたファンタジーという点では勾玉シリーズと同じですが、時代が全く違うため、かなり雰囲気の異なる作品になっています。


世界遺産の山にある玉倉神社に住む、引っ込み思案でおとなしい中3の少女、鈴原泉水子(すずはらいずみこ)。
無口なだけにクラス内でも浮いていて、自分が住む山と中学校以外の場所にほとんど行ったことがないため、世間知らずで浮世離れした部分もあり、本人も学校の友達のように「普通の女の子になりたい」と願っていました。
ところが突然同じ中学に転校してきた相楽深行(さがらみゆき)という同い年の男子の登場で、泉水子の生活は一変してしまいます。


何と言うか、不思議な雰囲気を持った作品ですね。
一見普通の中学生活を描いた学園ものなのに、そこに少しずつ「ちょっと不思議」な要素が入ってくる。
唐突じゃなく、あくまでも少しずつだからとまどいはないのですが、ごくごく普通の田舎の公立中学校の学校生活の描写の中に、山伏だの修験道だの、そういう日本古来のものが入り込んでくるのが何とも言えず不思議な感じです。
でも、この現代の普通の学生生活とファンタジー要素とが、変に分離することもなくごく自然に交じり合っているこの感じ、嫌いじゃないなぁ。
現代の日本が舞台というのは状況を思い浮かべやすいだけに読みやすいし、ファンタジー要素といっても日本古来の文化に基づくものなので、自然と肌に馴染む感じがします。
世界遺産である熊野古道が舞台というのも、神秘的なイメージが作品の雰囲気作りに貢献していていいですね。
静謐で神聖な山の空気が伝わってくるかのようでした。


主人公の泉水子は、運動神経が鈍いため体育の球技の授業は見学し、パソコンや携帯といった機械ものはなぜか必ずと言っていいほど壊してしまい、電車にも乗ったことがないという、「大丈夫かなこの子」とちょっと心配になってしまうような、のろくて鈍くさい子です。
今時の中学生とも思えないような子ですが、実は彼女には本人も知らない重大な秘密があるのでした。
彼女が周りの人々に守られながら、どんなふうに成長していくのか気になるところです。
そして泉水子と深く関わることになる深行は、ちょっと冷たいというか意地悪なところもあるのですが、性根はけっこう優しいのではないかと思われます。
泉水子とは対照的に勉強も運動も優秀で、行動力もある彼が、今後泉水子の助けになってくれるといいのですが…。


サブタイトルの「はじめてのお使い」という言葉の意味には少しびっくりしました。
この言葉の持つほのぼのとしたイメージとはずいぶん違った意味で使われているのが面白いです。
まだシリーズとして始まったばかりで、いろいろ分からない部分も残ったままに物語が終わり、まだまだ本格的に話が動くのはこれからという感じです。
単行本では4作目まで刊行されているようなので、続きの文庫化をゆっくり待ちたいと思います。
☆4つ。