tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『天と地の守り人 −第二部 カンバル王国編−』上橋菜穂子

天と地の守り人〈第2部〉カンバル王国編 (新潮文庫)

天と地の守り人〈第2部〉カンバル王国編 (新潮文庫)


再び共に旅することになったバルサとチャグム。かつてバルサに守られて生き延びた幼い少年は、苦難の中で、まぶしい脱皮を遂げていく。バルサの故郷カンバルの、美しくも厳しい自然。すでに王国の奥深くを蝕んでいた陰謀。そして、草兵として、最前線に駆り出されてしまったタンダが気づく異変の前兆―迫り来る危難のなか、道を切り拓こうとする彼らの運命は。狂瀾怒涛の第二部。

第二部はバルサとチャグムが共に旅することになって、なんだか一番最初の『精霊の守り人』を思い出してちょっとうれしくなりました。
でも、その道行きは『精霊の守り人』の時よりもはるかに厳しく、危険なものでした。


北の大陸、そして新ヨゴ皇国を守るために、ロタ王国とカンバル王国に同盟を結ばせることを目指して進んでいくチャグム。
とにかく第二部はチャグムの成長ぶりがめざましいなという印象でした。
人の上に立つ者としての器がどんどん完成しつつありますね。
かと思えば少年らしい部分や、人間味のある部分など、チャグムという人物のさまざまな側面が魅力的に描かれていて、すっかりチャグムファンになってしまいました。
特にカンバル王を説得する場面が一番好きです。
あの出来事を経て、チャグムは人間として一皮むけたのではないかと思います。
絶体絶命の危機に何度も直面しながら、それでもチャグムがたくさんの人の助けを得ながら生き延びて、細い道を何とか切り開いていく様子に、胸を打たれました。


そして…こんな読み方をするのは邪道かもしれないし、作者の上橋さんの本意ではないかもしれませんが、それでもこの物語と、今の日本の状況を重ねずにはいられませんでした。
特に、チャグムが旅先の宿屋で新ヨゴ皇国に戻れなくなってしまった人たちと出会う場面で、戦乱に巻き込まれずに済むならそれも幸せかもしれないというバルサに対し、チャグムが故郷に戻れないことほど辛いことはないと言い返す場面。
チャグムにとって故郷の新ヨゴ皇国、特に自分が暮らす宮は、決して居心地のいい場所ではなかったはず。
父である帝に疎まれ、憎まれ、命を狙われさえしていたのですから。
それでも故郷へ、国へ帰りたいというチャグムの想いにハッとし、今この日本で原発事故で故郷へ帰れる日が来るかどうか分からない状況に置かれている人たちのことを思うと、涙が止まりませんでした。
「いつか帰ることのできる場所がある」、それだけで生きる希望になるのだから、その希望が揺らいだり絶たれたりすれば、それは死にも等しい絶望になるのだと思いました。


そんな中でも僅かな希望を繋ぐために、必死になって道を切り開いていこうとするチャグムとバルサの姿勢に、私たちは学ぶところがあるのではないかと思います。
決してあきらめず、打てる手の全てを打ち、掟を破り、自らのプライドを投げ打ってでも、故郷を守る道を邁進する…。
次々立ちはだかる苦難と危機にハラハラしながらも、どこか安心して読んでいる部分もあったのは、チャグムとバルサの揺るぎない意思と強い絆があるからなんだろうなと思います。
どんな困難も乗り越えていくために必要なのは、人間の力ですね。


さて、次の第三部はいよいよ完結編。
帝に対峙することになるであろうチャグムや、草兵として戦場に赴いたタンダの命運が気になりますが、願わくばこの物語の果てに、ひとりでも多くの人たちが笑っていますように…。
☆5つ。