tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『図書館危機』有川浩


思いもよらぬ形で憧れの“王子様”の正体を知ってしまった郁は完全にぎこちない態度。そんな中、ある人気俳優のインタビューが、図書隊そして世間を巻き込む大問題に発展。加えて、地方の美術展で最優秀作品となった“自由”をテーマにした絵画が検閲・没収の危機に。郁の所属する特殊部隊も警護作戦に参加することになったが!?表現の自由をめぐる攻防がますますヒートアップ、ついでも恋も…!?危機また危機のシリーズ第3弾。

図書館戦争」シリーズ3作目。
第3弾ともなると、さすがに安定してきたと言うか何と言うか。
文章も1作目と比べると非常に読みやすくなり、ストーリーも加速度を増して、ますます面白くなってきました。


今回は前2作よりもより深く「表現の自由と規制」について考えさせられました。
出版やテレビなど、メディア業界による「自主規制」は、この「図書館戦争」の世界でなく、現実の今の日本に間違いなく存在します。
有川浩さん自身もそうした規制により表現を変えなければならないことが何度かあったという話をあとがきなどで明かされています。
潮文庫の『Story Seller 3』に掲載された「作家的1週間」はとある単語をめぐる新聞社と作家の攻防を描いていて、とても面白く読んだのですが、やはりこれは有川さん自身の体験談を書かれたものだったのですね。
その他、アニメ版「図書館戦争」では、聴覚障害者である毬江は地上波での登場NGだったとか、そういった事例は本当にたくさんあるようです。


言葉の選び方の問題に関してはまだ分からないでもないのですが、聴覚障害者がアニメに登場してはいけない理由とは一体何なのでしょうか。
私にはよく分かりませんでした。
でも、そういうよく分からない規制がまかり通っているのがこの世界なのです。
作中に登場する「床屋」や「魚屋」、「八百屋」といった言葉も、なぜそれが差別語であるかのように規制対象になっているのか不思議です。
私はビジネス翻訳の勉強をしていたので、新聞社などが作っている使用禁止または要注意用語のリストにも一応目を通したことがあります(検索すると簡単に見つかりますので興味のある方はどうぞ)。
そこにはどうしてこんな言葉が規制対象になるのかと首を傾げるような言葉もたくさんありました。
でも、個人的には規制する必要がないと思うような言葉でも、クライアントが「この言葉は使わないで欲しい」と要求してくれば、仕事を請ける側の人間としてはある程度自分の意見は押し込めて、相手側の意向に沿わざるを得ないんですよね。
そうやって、罪も悪意もないはずの言葉が、規制されたという実績を積み上げていくうちにやがて本当に「差別語」となってしまう…というくだりには、とても耳が痛い思いをしました。
おそらく文章を書くという仕事には必ずつきまとってくるジレンマなのだと思います。


今作の最後で、郁たち図書特殊部隊は激しい戦闘を経験します。
それは全て、自由を侵す者たちに対抗し、自由を守るため。
わけの分からない規制に決して屈しないという強い想いと決死の覚悟で戦い抜く郁たちの姿に胸が熱くなり、涙が浮かんできました。
政治家や官僚が決める理不尽な事柄に関して何の声も上げず、無関心にただただ流れに身を任せた結果がどんなに恐ろしいことになるかを、私たちは知っておかなければならないのだと思いました。
表現規制に関することだけでなく、あらゆる面で。
自分たちの自由と権利は、当たり前にそこにあるものではなく、確固とした意思を持って、守り通していかねばならないものなのだと思います。


なんだか硬い話になってしまいましたが、ラブコメ的にももちろん盛り上がってきています。
ようやく自分の堂上教官への気持ちを認めた郁。
今回郁にとってはかなり辛い場面が多かったなぁという感じでしたが、「俺がついてる」なんて言ってくれる頼れる上官がいるなんてうらやましい。
私もそんな上司ぜひ欲しいです(笑)
でも個人的には手塚と柴崎の関係の方が気になっています。
恋愛フラグが立っているような立っていないような…まだ微妙な感じで、この中途半端な関係がじれったくていいですね。
お似合いのカップルになりそうな気がするんですが、どうなんでしょう。


気付いたらこのシリーズも本編はあと1作のみ。
恋も、図書館の自由をめぐる戦いも、結末が楽しみです。
☆5つ。