tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『図書館内乱』有川浩


図書隊の中でも最も危険な任務を負う防衛隊員として、日々訓練に励む郁は、中澤毬江という耳の不自由な女の子と出会う。毬江は小さいころから面倒を見てもらっていた図書隊の教官・小牧に、密かな想いを寄せていた。そんな時、検閲機関である良化隊が、郁が勤務する図書館を襲撃、いわれのない罪で小牧を連行していく―かくして郁と図書隊の小牧奪還作戦が発動した!?書き下ろしも収録の本と恋のエンタテインメント第2弾。

図書館戦争」シリーズ2作目。
1作目はこの独特の世界観作りと登場人物たち一通りの顔見世が中心になっていましたが、2作目は1作目で完成した世界の中で、キャラクターが自由に動き始めたような、生き生きとした空気が感じられました。
各話を独立した物語として読むこともできると思いますが、全体を通しての伏線もきっちり張られており、連作短編集的な楽しみ方ができて、連作短編集好きの私としてはとてもうれしかったです。
キャラクターが自由に動き始めて作者の筆も乗ってきたのか、文章も1作目に比べるとかなり読みやすく感じました。


というか…なんだか1作目より甘さ50%増しぐらいになっているような気がしますよ?
激しい戦闘シーンがなかったせいもあるのでしょうが、ラブコメ度が明らかに上昇しています。
堂上が郁の頭をポンポンって叩くシーンの連発には…もう!(身悶え)
普段厳しい人がふと見せる優しさには惹かれますよねぇ。
というか、ずるいという気もしますが。
郁の「今優しくしちゃイヤです……」という言葉に心の底から共感。
精神的に参っている時に優しくされたら、そりゃあ…ねえ。
でも個人的には男性は背が高い方が好みです…って、え?私の好みは聞いてない??
それはさておき(笑)、女子が思わずときめいてしまうシチュエーション満載な辺り、血なまぐさい戦闘シーンありでもやっぱり女性作家の作品だなぁと思いました。
堂上&郁の組み合わせもよいけれど、個人的には小牧&毬江のカップルが初々しくて爽やかでいいなと思います。
年の差カップルも悪くないですね。


思わず顔がにやけてしまうようなラブコメの中に、図書館のあり方だとか検閲の是非だとかといったちょっとお堅い話が入ってくるのがこの作品の面白いところです。
検閲に反対という立場を取る図書館でも、検閲賛成派の意見が書かれた本も反対派の本も同じ数だけ入れなくてはならないのだという話にははっとさせられました。
中立であり、公正であろうとすることはなかなか難しいことだけれど、自由を守るためには義務も守らなければならなくて、それこそが正義だというメッセージが強く伝わってきました。
でも決して説教くさくなく、押し付けがましくもないのは、この作品のラブコメ的側面がエンターテインメント性を強化しているからなのでしょうね。
楽しく読んで、表現や読書の自由についても考えることができる。
刊行時に図書館からかなりの反響があったというのも、当然のことだと思います。


文庫版おまけの書き下ろしショートショートや、有川さんと児玉清さんの対談もとても楽しめました。
ものすごく続きが気になるところで終わっているところがまた心憎いですね。
郁と堂上はお互いに素直になれるのか、小牧と毬江の関係はどのように進展していくのか、手塚と柴崎の間に恋愛感情は生まれるのか、そしてこの巻から登場した手塚の兄は今後どのように暗躍するのか…?
ますます目が離せません。
☆5つ。