tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『図書館戦争』有川浩


2019年(正化31年)。公序良俗を乱す表現を取り締まる『メディア良化法』が成立して30年。高校時代に出会った、図書隊員を名乗る“王子様”の姿を追い求め、行き過ぎた検閲から本を守るための組織・図書隊に入隊した、一人の女の子がいた。名は笠原郁。不器用ながらも、愚直に頑張るその情熱が認められ、エリート部隊・図書特殊部隊に配属されることになったが…!?番外編も収録した本と恋の極上エンタテインメント、スタート。

フリーター、家を買う。』『阪急電車』が相次いで実写映像化され、今年の本屋大賞にも2作品同時ノミネートと、今間違いなく一番ノッている作家、有川浩さんの代表作「図書館戦争」シリーズがようやく文庫化されました。
どうやらシリーズ全てを何ヶ月かにわたって一気に刊行するようで、ずっと文庫化を待っていた私のような人間にはうれしい限りです。


舞台は2019年の日本。
そこは「公序良俗を乱す出版物を取り締まる」という目的の下制定された「メディア良化法」により、書籍や雑誌などの検閲が繰り広げられる社会。
そのような状況下で、図書館は表現の自由を守るため、やむなく「図書隊」という武装組織を持って、時に暴力も辞さずに厳しい検閲を行おうとする「メディア良化委員会」に対抗せざるを得なくなっています。
そんな図書隊に入隊し、戦闘職種を志望したひとりの女子、笠原郁。
彼女は高校生の頃、図書隊員に我が身と大好きな本を助けられた経験があり、その図書隊員の背中を追って図書隊に入隊したのでした。
けれども憧れの図書隊員への道は険しく、やたらと厳しい上官・堂上篤にしごかれ、同期の手塚光には目の敵にされる日々。
郁は自分を助けてくれた「王子様」のような、立派な図書隊員になれるのでしょうか…?


なかなかすごい設定ですよね、図書館が表現規制の検閲機関と武力を用いて戦っているなんて。
図書館という静かなイメージのある場所と、戦場の物々しさが一つの物語の中に同居しているのです。
一見荒唐無稽のように思えますが、読み進めるうちにそれほど現実からかけ離れているわけではないと感じられてくるのが怖いところです。
「青少年の成長に悪影響を与えるもの」を規制し取り締まろうとする動きは、今の日本に事実あるのですから。
図書館が武装し、実際に血も流されるというような事態にまではならないまでも、この作品に登場する「メディア良化法」のような法律が成立してしまう可能性は十分に考えられるのではないかと思うのです。
その妙なリアリティが怖く、気がついたら感情移入していました。
作品中に、中学生が自分たちの読書の自由についてアンケートを募る場面があるのですが、そのアンケートがまたうまくできていて、読みながら思わずそれぞれの設問に対して自分ならどう答えるだろうかと真剣に考えてしまいました。
有川さん、上手いなぁ。


そういう現実的な問題について考えさせられる一方で、ライトノベルっぽい軽さとラブコメの甘さでエンターテインメント性が非常に高いのも有川さんらしいところです。
ちょっと個人的にはラノベ風の文体と軍事用語の連発という慣れない組み合わせに読みにくさを感じたのですが、ストーリーの面白さ、キャラクターの魅力には十分満足できました。
というか根っからの本好きで、図書館という空間も好きで、少女マンガ的甘甘ラブコメも好きで…という私がこの作品に惹かれないわけがない(笑)
本を守るために戦うなんて本好きにはたまらないシチュエーションだし、だからこそ自分と自分が好きな本の危機に颯爽と現れて救ってくれた人に惚れ込んで、うっかり「あたしの王子様」なんて口走ってしまう郁の気持ちも分かってしまうのです。


これからの図書隊の活躍ぶりと、郁と堂上の関係が気になります。
一気に集中刊行は本当にありがたいなぁ。
早速次巻『図書館内乱』を読み始めます。
☆4つ。
そうそう、巻末にはおまけのショートショートと、有川浩さんと児玉清さん(心よりご冥福をお祈りします)の対談も収録されていて、そのサービス精神の旺盛さも好感度大です。