tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『プリンセス・トヨトミ』万城目学

プリンセス・トヨトミ (文春文庫)

プリンセス・トヨトミ (文春文庫)


このことは誰も知らない―四百年の長きにわたる歴史の封印を解いたのは、東京から来た会計検査院の調査官三人と大阪下町育ちの少年少女だった。秘密の扉が開くとき、大阪が全停止する!?万城目ワールド真骨頂、驚天動地のエンターテインメント、ついに始動。特別エッセイ「なんだ坂、こんな坂、ときどき大阪」も巻末収録。

『鴨川ホルモー』で京都を、『鹿男あをによし』で奈良を舞台に、奇想天外なファンタジー世界を構築した万城目学さんが、今度は大阪を舞台に新たな世界を見せてくれました。
その名も「大阪国」!


会計検査院の調査官である松平、鳥居、旭・ゲーンズブールの3人が今回実地検査に入ることになったのは大阪の地。
そこで彼らは謎の社団法人の検査に赴いたが、何やら少々怪しげなこの法人、一体その正体は?
その一方、大阪の下町・空堀商店街に住む幼なじみの大輔と茶子は、彼らが通う中学校で起きたある騒ぎの渦中にいた。
果たして2人の運命は…?


ストーリーをあまり詳しく説明しすぎると興ざめだからこのあたりにして…、「大阪国」という発想がとにかく面白いなぁと思います。
大阪城の地下に本物の国会議事堂と瓜二つの「大阪国」議事堂があって、何百万人もの大阪府に住む男たちがみんなして密かに400年も前から「大切なもの」を守り続けている…という設定は、どこかロマンがあっていいですね。
作者の故郷・大阪への愛着から生まれた物語なんだろうなぁとも思いました。
この作品に描かれている大阪の街や大阪府民は、もしかしたら他県の方が持っている大阪のイメージとはちょっと異なるかもしれません。
コテコテのお笑いの世界は登場しませんが、ここに描かれている人情味あふれる町民文化の街こそが本物の大阪という感じがします。
それがちゃんと書けるのはやはり作者が大阪の下町出身だからでしょう。
豊臣秀吉の時代から始まる大阪の歴史や文化についても、非常に詳しく説明され、うまくストーリーに取り入れられています。
私自身は京都育ちで根っからの大阪人ではありませんが、こうした大阪への愛にあふれた作品に出会うとやはりうれしくなります。


それと、やはり人物造形はさすがの上手さですね。
会計検査院の調査官の3人も、空堀商店街の中学生やその保護者たちも、みんな個性が引き立っていて強く印象に残ります。
優秀なエリートで威厳を持った「鬼の松平」の好きなものがアイスクリームというのも面白いし、小柄で中学生に間違われてしまう鳥居と、フランスの血が入っていて日本人離れした長身と美貌の旭との対比も鮮やか。
この作品、そろそろ映画が公開されるはずですが、確かに映像化に向いた登場人物が多いなぁという気がしました。
「女の子になりたい」という願望を抱き、ある日突然セーラー服を着て登校してしまう大輔や、小柄な女の子でありながら地元の暴力団の組長の息子にも恐れず立ち向かっていて怪我をさせてしまう茶子も、なかなか面白い設定で生き生きと作品世界を躍動しています。
ちょっと「普通ではない」大輔の理解者である両親や学校の先生たちも素敵。
基本的に「いい人」ばかりが登場するので、安心して読めます。


大阪への愛が大きすぎるゆえか、少々書き込みすぎで若干テンポが悪い気もしますが、心が温まるファンタジー作品で楽しめました。
大阪が好きな人、大阪について詳しく知りたい人、豊臣秀吉が好きな人(?)はぜひ。
☆4つ。