tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『ドリームバスター 4 時間鉱山 前篇』宮部みゆき


シェンの友人D・Bマッキーが、謎の「場」で行方不明になった。ドレクスラー博士によると、そこは通常の「場」ではなく、時間の源泉のそばにあり、湧きだした時間が結晶化している「時間鉱山」なのだという。確かに、そこから帰還したD・Bレイモンは、複数の「時間律」の影響で、分離系二重身なる奇妙な現象に見舞われていた。マッキー救出のため時間鉱山に飛んだシェンは、そこで、三人の日本人、ヒロム、キエ、ユキオに出会う。彼らがそこにいるということは、現実世界では昏睡状態であることを示している。ヒロムは交通事故、キエとユキオは、心中を企てたらしい…。シリーズ最大のエピソード、開幕。

「テーラ」と呼ばれる星のドリームバスター(D・B)という、地球人の夢の中へ入り込んだ犯罪者を捕まえるハンターの少年・シェンと、その師匠兼相棒のマエストロの活躍を描くシリーズ第4弾。
今回は「時間鉱山」と呼ばれる、地球人の夢の中とはまた違った場所の謎を探りに行くことになります。


この「時間鉱山」、なかなか面白い場所だなぁと思います。
時間の源泉のそばにあって、湧き出した時間が結晶化して「時間鉱石」というものができている。
時間鉱山の内部は時間が流れない。
そして、時間鉱山には生死の間をさまよっている地球人たちの意識が迷い込んでいる…。
シリーズのこれまでのエピソードの中でも、もっともSFっぽい設定の話ではないかなぁと思います。
ドレクスラー博士とシェンとの「時間」に関する議論は面白かった。
物理は苦手な私でもなんとなくつかめる程度に、分かりやすく噛み砕いて丁寧に説明してくれるあたりはさすが宮部さんだなぁと思いました。
「時間鉱山」のような未知の場所の探検は冒険ものファンタジーの王道ですし、鉱山の内部の坑道はまるでRPGに出てくるダンジョン。
そこはかとなくテレビゲームっぽさが漂うのはいかにも宮部さんらしいです。
宮部作品のファンである以上に、宮部さんのファンでもある私にはとても楽しめました。


それから、このシリーズはキャラクターもなかなかいいのです。
今回は特に「かわいい」キャラクターが多いのが私好み。
前作から登場の田舎娘カーリンは素朴で気が強いところもあって、やっぱりかわいい。
そしてドレクスラー博士はまた別の意味でかわいい。
天才肌の科学者で、テーラを壊滅状態に追い込んだ「大災厄」の元凶である一方、まるで少年のような外見と少女のような可愛らしさを併せ持った人物。
かなりの変人であり、ちょっと気持ち悪い部分もありますが、私はなんだか嫌いになれませんでした。
頭がいいのは確かですし、人懐っこいところなどは憎めない、年齢や肩書きにそぐわない可愛らしさを持った人物で、妙に惹かれるところがありました。
それから時間鉱山に迷い込んだ11歳の地球人の少年・ヒロム。
こちらはもう文句なしにかわいいですね。
無邪気で純粋だけれど賢い。
宮部さんの描く少年キャラの特徴を全部備えたキャラクターです。
でも時間鉱山に来ているということは、すなわち仮死状態にあるわけで…。
それを考えながら読むと、切ない気持ちにもさせられるキャラでした。


他にも、かわいくはないですが、シェンとマエストロが時間鉱山で出会うあと2人の地球人、キエとユキオもなかなか個性的なキャラクターです。
この2人は自殺願望のある人たちが集うウェブサイトで知り合って心中を図ったことがきっかけで時間鉱山に迷い込むことになるのですが、おそらくこの作品が書かれた当時、ネットで出会った見知らぬ者同士の集団自殺が話題になっていたのでしょう。
こういう現実世界とは異なるファンタジー作品にも、タイムリーな現代の事象を盛り込むのは宮部さんらしいなと思いました。


タイトルに「前篇」とある通り、時間鉱山編はまだまだこれからが本番。
続きの5巻も早速読み始めました。
結末が楽しみです。
☆4つ。