tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『麦の海に沈む果実』恩田陸

麦の海に沈む果実 (講談社文庫)

麦の海に沈む果実 (講談社文庫)


三月以外の転入生は破滅をもたらすといわれる全寮制の学園。二月最後の日に来た理瀬の心は揺らめく。閉ざされたコンサート会場や湿原から失踪した生徒たち。生徒を集め交霊会を開く校長。図書館から消えたいわくつきの本。理瀬が迷いこんだ「三月の国」の秘密とは?この世の「不思議」でいっぱいの物語。

ずっと積読になっていた本をようやく読みました。
恩田陸さんの『麦の海に沈む果実』。
これは『三月は深き紅の淵を』と繋がった作品なのですが、私が『三月〜』を読んだのはもう8年も前のことです。
独特の世界観に惹かれ、面白く読んだことは覚えているものの、細かい内容までは覚えておらず…。
それでもこの『麦の海に沈む果実』は、『三月〜』とはまた別の、独立した作品として新たな気分で楽しめました。


湿原に囲まれた洋風の学園に転入してきた水野理瀬。
聡明で美しい彼女は、実は記憶を失っていた…。
2つの顔を持つ校長、さまざまな事情を背負って学園にやってきた生徒たち、学園に広まる不気味な噂、謎の生徒失踪事件。
この学園が抱える秘密とは?
そして理瀬が失った記憶を取り戻す時、どんな真実が明らかになるのか。


この作品について説明するのはとても難しいです。
恩田さんらしい、独特の世界観と雰囲気で、とにかく読んでみて実際に作品の世界に入り込んでみなければ分からない部分があると思います。
謎めいていて、不気味で、不可思議で、神秘的で、ダークで…。
読んでいて心が弾むような明るい作品とは言い難く、どちらかというと暗い作品なのですが、個人的にはこの雰囲気は決して嫌いではありません。
むしろ妙に心惹かれるところがあります。
舞台が全寮制の学園、それも洋風(舞台は日本ですが)ということで、なんとなく「ハリー・ポッター」の世界と少し似ている気がしました。
図書館や食堂、学生寮の描写なんかが好きですね。
さまざまな学校行事の数々もどれも面白かったし、私は学園ものが好きなんだなぁと改めて確認したような気がしました。


そういう雰囲気の物語の中で、個性的な登場人物たちの描写がまた印象的です。
理瀬のルームメイト・憂理、ストレートな物言いの黎二、女子に大人気のヨハン、天才肌の聖…。
作品の世界にしっくり馴染むこれらの生徒たちが学園生活の雰囲気を盛り上げます。
みんな10代とは思えないほど大人びていて、でもどこかとても脆いところもありそうで…現実にはいなさそうな子たちばかりなのですが、不思議と感情移入はしやすい感じがしました。
かと思えば、校長の親衛隊の生徒たちは、理瀬を妬み、いじめます。
これもまたこの年頃の少年少女が持つ残酷さが浮き彫りになっていて、妙なリアリティを感じました。


ストーリー自体は学園小説としても、ミステリとしても、ファンタジーとしても読める、これまた不思議な雰囲気の筋書きです。
ラストが唐突でちょっとあっけない感じはしましたが、さまざまな謎で最後までぐいぐいと引っ張って読ませてくれる作品でした。
これぞ恩田陸ワールド!という感じで満足です。
この理瀬を主人公とする物語は『黄昏の百合の骨』に続いているらしいので、こちらもぜひ読もうと思いました。
☆4つ。