tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『鏡の迷宮、白い蝶』谷原秋桜子

鏡の迷宮、白い蝶 (創元推理文庫)

鏡の迷宮、白い蝶 (創元推理文庫)


「水島のじいちゃん」の名代で、西遠寺家の人々とともにかのこの許嫁の家の別荘へ向かうことになった修矢。招かれた別荘の隣には、万華鏡作家が住んでいた。認知症を患うその人は、所持している大きなダイヤの隠し場所をメモしていたのだが…。中学生の美波と高校生の修矢。二人がそれぞれ出あった少し切ない事件たちを描く本格ミステリ短編集。人気シリーズ、前日譚第二弾。

2011年最初の読書は、谷原秋桜子さんの「美波」シリーズ番外編第二弾。
もともとはライトノベルレーベルから出ていたシリーズですが、現在は創元推理文庫で大人も楽しめるライトミステリとして刊行されています。
本編シリーズは女子高校生の美波がさまざまなアルバイトをする中で遭遇した事件を、隣家に住む大学生の修矢が見事な安楽探偵ぶりで解決するという筋書きです。
一方、こちらの番外編シリーズは、美波と修矢がそれぞれまだ中学生と高校生の頃の話。
お互いに相手の存在もまだ認識していません。
そして、本編シリーズでは故人になっている「水島のじいちゃん」がまだ存命で、安楽椅子探偵役はこのじいちゃんが担当しています。


この設定が非常に効いていて、私はこの番外編シリーズの方が好きかもしれません。
じいちゃんの残りの人生がもう長くはないということを、本編シリーズを読んで知っているからこその切なさを、このシリーズからは感じずにはいられません。
この先、この番外編シリーズでじいちゃんの死や、修矢がじいちゃんの跡を継ぐかのように安楽椅子探偵役を務めるきっかけが描かれるのかどうかはまだ分かりませんが、本編シリーズにどのようにつながっていくのか気になるところです。


そして、私の好きな日常の謎を中心にした連作短編集という形式であることも、本編シリーズよりも好きな理由の一つです。
日常の謎だからといってミステリ度が低いわけではなく、むしろだんだん謎解きの本格度は増してきているように思います。
この作品の中では、伝統的な手妻(日本の手品芸)のいくつかの種明かしが描かれ、それが謎解きの伏線となる「子蝶の夢」が個人的には一番よかったです。
ラストの切ない余韻も何とも言えません。
そして、各短編の最後の方で出てきたキーワードが次の短編の冒頭にも出てくるという、連作短編集ならではの趣向も素敵だなと思いました。
修矢が主人公の話と美波が主人公の話が交互に語られ、それぞれの話は独立しているように見えるのですが、実はつながっているという、こういう遊びは大好きなのです。


美波の友達であるかのこ(本編シリーズでは美波の高校の同級生ですが、この番外編シリーズではまだ出会っていません)と修矢の意外な関係がこの先どうなるのかも気になるところです。
また、ラストでは美波と修矢がニアミスをしていますが、いつ正式に出会うことになるのかも気になります。
気になる要素が増えて、ますます先が楽しみなシリーズになってきました。
でも、そろそろ本編シリーズの方も進めてほしいなとも思うので、ちょっと複雑な気分です。
☆4つ。