tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『田村はまだか』朝倉かすみ

田村はまだか (光文社文庫)

田村はまだか (光文社文庫)


深夜のバー。小学校のクラス会三次会。男女五人が、大雪で列車が遅れてクラス会に間に合わなかった同級生「田村」を待つ。各人の脳裏に浮かぶのは、過去に触れ合った印象深き人物たちのこと。それにつけても田村はまだか。来いよ、田村。そしてラストには怒涛の感動が待ち受ける。’09年、第30回吉川英治文学新人賞受賞作。傑作短編「おまえ、井上鏡子だろう」を特別収録。

なにやらネットで評判がよいようだったので手に取ってみました。
今年最後の読書が初めての作家さんというのもなかなか乙なものです(笑)


アラフォーの男女5人が小学校の同窓会の後で場末のバーに行き、そこでひたすら元同級生の田村を待ち続ける。
あらすじとしてはただこれだけの話。
でも、田村を待つ間に、小中学校の頃や、社会人になってからの出来事や、最近の恋のことなど、それぞれの回想話が挟まれます。
この回想話がどれも、ある程度歳を重ねた大人だからこその深みというか悲哀が感じられて切ないのです。
本文中に「若さ自慢も年寄り自慢もしたいお年頃」というような一節がありましたが、アラフォーってまさにそういう年頃なんだろうなと思いました。
独身でまだそれなりの若さを保って、恋に仕事に打ち込んでいる人もいる。
家庭を持って落ち着いている人もいる。
浮気や不倫に首を突っ込んでしまう人もいる。
同年代の友達の死や病、親の老いを目の当たりにする人もいる。
そんな、人生のちょうど中間地点に立ったからこそ見えてくるさまざまな人生の側面が、このボリューム的にはコンパクトな連作短編集にぎゅっと詰まっています。


個人的には男子校の養護教諭をしている女性、「ちなっちゃん」の、ある生徒への淡い感情が切なくて心に沁みました。
「まだ○歳」と自分に言い聞かせる心情は私にも分かるし、その心情を生徒たちに見透かされているという状況も、なんとなく分かる気がします。
アラフォーという年齢は私にはまだもうちょっと先ですが、少しずつ確実に近付いてきているだけに、共感できる部分も増えてきました。
おそらくもう何年か後にはもっとこの作品に共感できるようになっているのではないかと思います。
そのときにまた再読してみたいなと思いました。


ちょっと残念なのは、出版社による宣伝文句が大げさすぎてこの作品の雰囲気には合っていないかな。
最後にちょっとびっくりするような展開があるものの、基本的には大人たちが酒を飲みながら過去を回想するという、シンプルで素朴な味わいの作品です。
「怒涛の感動」という惹句から連想するような盛り上がりを期待していると肩透かしを喰らいます。
じわじわと来る…というのが実際の読後感でした。
お正月にこたつでのんびり読むのにもちょうどいい作品ではないかと思います。
☆4つ。