tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『豆腐小僧双六道中ふりだし』京極夏彦

文庫版  豆腐小僧双六道中ふりだし (角川文庫)

文庫版 豆腐小僧双六道中ふりだし (角川文庫)


江戸郊外のとある廃屋に、いつのまにやら棲みついていた1匹の妖怪、豆腐小僧。豆腐を載せた盆を持ち、ただ立ちつくすだけの妖怪である自分は、豆腐を落としたとき、ただの小僧になるのか、はたまた消えてしまうのか―。思い悩んだ小僧は、自らの存在理由を求めて旅に出る!軽快な講談調で、小僧が出会う鳴屋や死に神、鬼火との会話の中から現れてくる妖怪論。妖怪とは、いったい何なのか?妖怪入門としても必読の痛快作。

この何かと慌しい年末の時期に京極夏彦さんの本に手を出すのはよろしくありませんね(苦笑)
700ページを超えるボリュームとやけに理屈っぽい妖怪論になかなかページが進まず、結局読了までに2週間以上もかかってしまいました。
いや、内容は面白かったのですけどね。


大きな頭にこれまた大きな笠をかぶり、もみじ豆腐を乗っけたお盆を持って突っ立っている。
ただそれだけ。
そんな人畜無害の妖怪、それが豆腐小僧。
頭がちょっと足りないけれど、何の悪さをするでもない善良な妖怪で、「小僧」なのに妙に大人びた話し方をしたり、自分も妖怪なのに妖怪の登場に驚いて悲鳴を上げたり。
なかなかに愛すべき妖怪で、読んでいるうちに愛着が沸いてくること間違いなしです。
そんな豆腐小僧が、棲みついていた江戸の廃屋から外の世界へ飛び出したのをきっかけに、さまざまなほかの妖怪やお化けと出会い、「妖怪とは何ぞや?」を学ぶ大冒険(?)を描いたのが本書です。


愛らしい豆腐小僧が主人公で、語り手は講談調。
親しみやすい形をとってはいますが、中身はなかなか本格的な妖怪論です。
もちろん妖怪初心者(?)にも分かりやすいように説明してくれてはいますが、論理的かつ理屈っぽい妖怪論を、当の妖怪たち自身が大真面目に語っているのがなんとも可笑しい。
やれ妖怪とはある現象を説明するために作られた概念だとか、人間の記憶に残っていれば妖怪も存在し続けるだとか、妖怪の姿かたちは人間の想像によって決まる…だとか。
でもこれがなかなか説得力があって興味深いです。
人間の生命や死を恐れ尊ぶ気持ちが神や仏を生んだように、科学が未発達の時代における謎や不思議な現象に説明をつけるために妖怪が生み出された。
非常に納得の行く話ですし、人間って何にでも説明を求めずにはいられない生き物なんだなぁと思いました。
そんな妖怪論が豆腐小僧と一緒に学べて、なかなか楽しかったです。


科学が発達した現代においては、妖怪はすっかりキャラクター化していますね。
豆腐小僧の可愛らしさは今流行りの「ゆるキャラ」に通じるものがあるかもしれません。
もちろん豆腐小僧以外にも、鳴屋(やなり)、死に神、滑稽達磨、袖引き小僧、大入道、轆轤首、猫股、天狗、人を化かす狸に狐…などなど、さまざまな妖怪やお化けや獣が登場します。
ラストはそうした人外が大集合して、想像してみるとなんだか「千と千尋の神隠し」のような、賑やかでちょっと不思議な大騒動。
この手の元祖キャラクターものが好きな人ならきっと引き込まれること間違いなし。
とにかく読んでいて楽しく、民俗学の勉強にもなるという、一石二鳥な作品でした。
☆4つ。