tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『赤朽葉家の伝説』桜庭一樹

赤朽葉家の伝説 (創元推理文庫)

赤朽葉家の伝説 (創元推理文庫)


千里眼の祖母、漫画家の母、そして何者でもない私。戦後史を背景に、鳥取の旧家に生きる三代の女たちを比類ない筆致で鮮やかに描き上げた雄編。日本推理作家協会賞受賞を受賞した桜庭一樹の代表作がついに文庫化!

桜庭一樹さんの作品は、最初に『少女には向かない職業』を読んでちょっと苦手な感じがしたり、直木賞受賞作の『私の男』は題材に抵抗感があったりで、気になる作家さんでありながらようやくこれが2作目。
ミステリでありつつスケールの大きな、独特の雰囲気を持った作品でしたがなかなか面白かったです。


物語は1953年、敗戦から復興していく時期から始まって、高度経済成長期、バブル期、バブル崩壊後…と戦後の日本の約50年間を駆け抜けます。
日本人の生き方も価値観も大きく変わったこの50年の間に、鳥取県の旧家・赤朽葉家も時代の波に翻弄されながらさまざまな変化を見ました。
そんな時代を生きた赤朽葉家の3代の女性たち。
1人目は、中国山脈の奥深くにひっそりと暮らしているという「辺境の人」に捨てられ、「ぶくぷく茶屋」で赤朽葉家の跡取り息子と出逢い、赤朽葉家へ嫁入りすることになった万葉。
不思議な千里眼の持ち主で、未来視をすることができる、ちょっと変わった女性です。
2人目は万葉の娘である毛毬。
中学・高校時代はレディースの頭としてぱらりらぱらりらとバイクで中国地方を走り回り、足を洗った後は売れっ子少女漫画家になった、これまた個性的な女性です。
そして最後の3人目は毛毬の娘である瞳子
瞳子だけは特に何の特殊能力も強烈な個性も持たない、ごくごく普通の女性なのですが、万葉が死の直前に残した言葉を聞いたことから、ある謎解きを始めることになります。


万葉と毛毬、それぞれの人生を描いた第一部・第二部からがらりと方向性が変わって、一気にミステリ風になっていくのがなかなか面白かったです。
もちろん第一部と第二部は、第三部で始まる謎解きの伏線になっているのですが。
戦後の日本の歩み、女性たちの生き様、家族の歴史、恋愛、ミステリ…。
巻末のあとがきで作者の桜庭さん自身が「全体小説」を目指して書いた、と書かれている通り、たくさんのテーマを詰め込んだ、壮大な物語です。
その物語の持つ大きな力に引きずり込まれるようにして読んだような、そんな不思議な感覚を味わえた読書でした。


また、この作品は日本推理作家協会賞を受賞した作品ですが、ミステリとしても確かにちょっとひねりがあって面白かったけれど、私としては3人の女性たちのそれぞれの生き方が興味深かったです。
3世代にわたる血の繋がった3人だけれど、それぞれ生きた時代が違う、性格も能力も価値観も違う、だからこそ生き方もバラバラの3人です。
第二部に「いつだって、それなりにサ、難儀な時代だよ」という毛毬のせりふがありますが、この言葉には共感しました。
どんな時代も生きていくことはそれなりに大変で、その時代ならではの生きにくさがあって、もちろん時代が変わっても変わることのない人間の生命の営みがあって…。
こうして親子3代の人生を続けて眺めてみると、そうした真実がよく見えてくるように思いました。


少女には向かない職業』は少し読みにくい感じもしたのですが、今回はとても読みやすかったです。
桜庭さんはものすごい読書家だという話ですが、確かに今まで大量の物語を読んで、その経験が書かせた物語なんだろうなということが感じられる作品でもありました。
またぜひ、桜庭さんの書く壮大なスケールを持った作品を読んでみたいです。
☆4つ。