tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『白鳥異伝』荻原規子

白鳥異伝 上 (徳間文庫)

白鳥異伝 上 (徳間文庫)


白鳥異伝 下 (徳間文庫)

白鳥異伝 下 (徳間文庫)


双子のように育った遠子と小倶那。だが小倶那は“大蛇の剣”の主となり、勾玉を守る遠子の郷を焼き滅ぼしてしまう。「小倶那はタケルじゃ。忌むべきものじゃ。剣が発動するかぎり、豊葦原のさだめはゆがみ続ける…」大巫女の託宣に、遠子がかためた決意とは…?ヤマトタケル伝説を下敷きに織り上げられた、壮大なファンタジーが幕を開ける!日本のファンタジーの金字塔「勾玉三部作」第二巻。

勾玉三部作」の2作目。
1作目の『空色勾玉』から時代は進み、さらにスケールが大きな物語になりました。


巫女の家系に生まれた少女・遠子と、遠子の母に拾われた捨て子の小倶那(おぐな)。
きょうだいのように育った2人はやがて大きな運命の渦に巻き込まれていき、いつしか離れ離れに…。
自分の忌まわしい出自を知り、強大な力を手に入れて遠子の故郷を滅ぼしてしまう小倶那に対し、遠子はある大きな決意を抱いて各地に散らばると言われる勾玉を探し集める旅に出ます。


個人的には1作目よりもこちらの方が好きです。
ヤマトタケル伝説を下敷きに、「3種の神器」なども登場し、純和風ハイファンタジーとして読み応えたっぷりでした。
遠子と小倶那という2人の少年少女が大人の男女へと成長していく物語でもあり、切ない恋物語でもあり、ハラハラドキドキする冒険物語でもあります。
登場人物たち1人1人が、それぞれ自分に与えられた使命をどのように果たし、厳しい運命をどのように乗り越えていくかという部分はいろいろ考えさせられ、読み応えがありました。
物語前半は笑える場面もありましたが、後半は感動的な場面が多く、読んでいて飽きることがありませんでした。
本格的ファンタジーであるという以前に、物語としてとても面白い作品だと思います。


特に私が魅力を感じたのは遠子の成長の過程でした。
小倶那が遠子の元を離れてからの成長物語も面白いのですが、それ以上に物語後半で描かれる遠子の大人の女性への成長ぶりが印象的でした。
男勝りの性格で、女として成熟することを拒んでいた遠子が身も心も女になっていく様子を生き生きと描いています。
小倶那への気持ちが肉親への情愛から故郷を滅ぼされたことに対する憎しみ、そして戦いを経て恋心へと変わっていく過程も共感できます。
さらには、逢いたい、ただそばにいたいという気持ちからそれ以上を求めるようになる恋心の変化も丁寧に描かれています。
子どもの頃はいじめられっ子で泣いてばかりいた小倶那が一人前の武人として、男性として成長していくことも、この作品の恋物語としての側面をしっかりと支えて、大人でも楽しめるラブストーリーになっています。
中学生くらいの多感な時期に読んでいたらもっと心がときめいたかもなぁ…(笑)なんて思いました。
まさに少女から女性への成長の過程にある年頃の人が読めば共感できるところが多いのではないでしょうか。


また、勾玉の持ち主であり、遠子を助けて共に旅をすることになる菅流(すがる)という青年の造形も魅力的でした。
女好きで軽いように見えて、子どもに弱かったり年長者として遠子や小倶那を導き見守る姿に好感が持てます。
小倶那とその本当の父母との関係もとても印象的でした。
人物がしっかり描けているからこそ、ファンタジーとしての魅力が存分に発揮されるのだと思います。
ファンタジー好きにはたまらない作品でした。
☆5つ。