『夜明けの街で』東野圭吾

夜明けの街で (角川文庫)

不倫する奴なんて馬鹿だと思っていた。ところが僕はその台詞を自分に対して発しなければならなくなる―。建設会社に勤める渡部は、派遣社員の仲西秋葉と不倫の恋に墜ちた。2人の仲は急速に深まり、渡部は彼女が抱える複雑な事情を知ることになる。15年前、父親の愛人が殺される事件が起こり、秋葉はその容疑者とされているのだ。彼女は真犯人なのか？渡部の心は揺れ動く。まもなく事件は時効を迎えようとしていた…。

サザンオールスターズの名曲にインスパイアされて書かれたという不倫ミステリ。
個人的には不倫は絶対ダメ派ですが、さすがに東野圭吾さんの作品はリーダビリティが高く、あまり抵抗なく読めました。

主人公の渡部は一部上場企業に勤める普通のサラリーマン。
安定した生活、恋愛結婚した妻、可愛い一人娘…人並みの「幸せ」を手に入れた渡部だったが、ある日同じ職場に派遣されてきた秋葉(あきは)の意外な素顔を知った時から、ずるずると不倫の恋にのめりこんでいく。
しかし秋葉には15年前に起こった強盗殺人事件に関して、ある疑惑があった…。

大企業勤務で、妻子がいて、金銭的余裕もある(少なくとも愛人をおしゃれなホテルやレストランに連れて行くことができるくらいには)。
いわゆる「勝ち組」ですよね。
それがどうして、何の不満があって「恵まれた今」を手放す危険をはらんだ不倫に走ってしまうのか…女であり独身である私にはどうにも理解ができませんが、結局は「ないものねだり」とか、「隣の芝生は青く見える」とか、そういうことなのでしょうか。
いや、自分がいかに恵まれていて幸せなのかを自覚していないということなのかな。
妻子ある男性との恋愛に走ってしまう女性というのも、私には理解ができない存在なのですが…。
この作品を読んでその辺りの謎が解けたということは決してないですが、不倫とミステリは相性がいいなとは思いました。
いかに不倫がばれないようにアリバイを作るか、いつまで完全犯罪を続けられるか…。
もしかすると不倫にハマってしまう人とミステリ好き(謎を解く方ではなく作る方)とは似ているのかもしれないなどと思いました(怒られそうですが)。

ミステリ的にはヒロインの秋葉が関わった15年前の殺人事件の真犯人は誰なのか、という1つの謎を最後まで引っ張ることになります。
真相にはそれなりに意外性もありますが、この作品のメインはやはり謎解きではないと思います。
不倫に走ってしまった「普通の」男の心理描写が読みどころなのでしょうね。
「いかにも」な女好きというわけでもなく、金に飽かせて女遊びする富豪とかでもなく、本当に普通のサラリーマンが主人公というところが効いています。
もしかしたらこんな不倫をしている人、私の周りにもいるのかもなぁと思ってしまうのです。
あまりドロドロした感じではなくさらっと軽く書かれているので、主人公が妻子ある男性でなければ普通の恋愛小説として違和感なく読めてしまうところもなんだかリアルな感じがします。
世の浮気や不倫をする人たちは、別に背徳感とかスリルとかそういうものを楽しみたくてやってるわけじゃないのかもしれないな、などと思いました。

サザンの曲に登場する横浜の風景がそのまま作中に登場し、ムードを盛り上げています。
結末は…ハッピーエンドと言ってもいいのかな？
題材のわりに読後感も悪くはありません。
不倫ネタが苦手な人にも読みやすい作品だと思います。
☆4つ。