tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『ラットマン』道尾秀介

ラットマン (光文社文庫)

ラットマン (光文社文庫)


結成14年のアマチュアロックバンドのギタリスト・姫川亮は、ある日、練習中のスタジオで不可解な事件に遭遇する。次々に浮かび上がるバンドメンバーの隠された素顔。事件の真相が判明したとき、亮が秘めてきた過去の衝撃的記憶が呼び覚まされる。本当の仲間とは、家族とは、愛とは―。

道尾秀介さんは本当に短い期間で急成長された作家さんだと思います。
自分の好みは別にして、作品がどんどんよくなっていっていることが感じられて頼もしいです。


主人公の姫川亮は、高校時代の仲間と組んだアマチュアロックバンドのギタリスト。
彼にはバンドのメンバーにも隠している、家族に関するある「秘密」があった。
その記憶が彼を苦しめる中、元バンドメンバーであり姫川の恋人でもあるひかりが遺体で発見される。
事故死に見せかけられたその事件の真相は…?


タイトルの「ラットマン」とは、前後の文脈による刺激によって人間の知覚が影響を受けるという現象を表す心理学用語。
あまり心理学用語という感じがしない言葉がタイトルになっていて、ちょっと損をしているような気もしますが、読んでみればこの心理学用語を軸に一貫した物語であることが分かると思います。
道尾さんの作品らしく、ミスリードがたくさん仕掛けられていますが、最後まで読むと最初から最後までひとつのテーマに沿った作品だったんだなぁと思いました。
スリードは分かっていても騙されてしまいます。
それは肝心な部分をぼやかして描写する、不安感を掻き立てるような文章が果たしている役割が大きいのでしょう。
ラストのどんでん返しに大いに驚かされました。
最後の1ページまで気を抜けない、巧妙に練り上げられた筋書きがすごいと思います。
テーマは決して明るくないのですが、読後感も悪くありませんでした。


これ以上書くとネタバレになりそうなので自重しますが、作品としての完成度はこの『ラットマン』が一番かなと思いますが、個人的には『シャドウ』の方が好きです。
まだまだいろいろな物語を読ませてくれそうな期待の高い作家さんです。
これからも作品を追いかけていきたいなぁと思います。
☆4つ。