tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『東京タワー―オカンとボクと、時々、オトン』リリー・フランキー

東京タワー―オカンとボクと、時々、オトン (新潮文庫)

東京タワー―オカンとボクと、時々、オトン (新潮文庫)


オカン。ボクの一番大切な人。ボクのために自分の人生を生きた人----。
四歳のときにオトンと別居、筑豊の小さな炭鉱町で、ボクとオカンは一緒に暮らした。やがてボクは上京し、東京でボロボロの日々。還暦を過ぎたオカンは、ひとりガンと闘っていた。
「東京でまた一緒に住もうか?」。
ボクが一番恐れていたことが、ぐるぐる近づいて来る----。
大切な人との記憶、喪失の悲しみを綴った傑作。
200万人が「家族」を思って涙した、2006年本屋大賞受賞作が待望の文庫化!

文庫化をずっと待っていました。
待った甲斐はあったと思います。
月並みな言葉ですが、とても感動しました。


小説という感じはしない作品ですね。
どこか事実と異なる創作の部分はあるのでしょうか?
でもエッセイという感じでもないのですよね。
言ってみれば1冊丸々、長い長いオカンへの感謝状であり、謝罪文であり、ラブレターという感じでしょうか。
リリーさん自身、もしかすると読者に読んでほしいと思って書いた作品ではないのかもしれません。
前半の自分の子どもの頃の話なんかは、第三者に読ませることを意識している文章だと感じましたが、中盤以降、オカンが病気にかかってからの話に入ってくると、感情が高ぶってきたせいもあるのか、あまり第三者としての読者を意識していないような文章に変わってきて、多少前半との乖離を感じました。
そういう意味では決して文章が小説として巧いというわけではないのだけれど、オカンへのいろんな想いがこもっている分、強く心に響きます。
オカンを強く慕う気持ちと、オトンへの複雑な感情とが入り混じっていますが、どちらもリリーさんの嘘偽りのない素直な気持ちをそのまま文章にしたのだろうと思いました。
その気持ちは、天国のオカンにも、福岡にいるオトンにも、きっと届いていると思います。


オトンはなんだか怪しげな商売をしていたり、愛人(?)がいたりと、手放しで「いい人だ」とは賞賛できない(もちろん根は悪くない人なのだと思います)のですが、オカンはひとつの母親の理想像と言えるのではないかと思いました。
いつも一人息子のことを気にかけていて、自分のことより何でも息子のことを優先して。
お料理が上手で。
いつも朗らかに笑っていて。
社交的で、年齢性別を問わずたくさんの友達がいて。
倹約家でコツコツ貯金をしていて。
病気でどんなに苦しくても、生きるために必死で耐えて。
素敵なオカンだなぁと思います。
嫌なところはひとつも描かれていない。
…そうか、そこのところが創作なのかもしれないですね。
でも、リリーさんにとってのオカンは、非の打ち所のない最高のオカンだったのでしょう。
それはもう間違いなく。
そして多くの人にとって、母親とはそういう存在なのだろうと思うのです。
だからこそこの作品は、多くの人に支持されることになったのでしょう。
「いつか必ずやってくるその日」を想像すると私も怖いですが、今はただただ母親を大事にしなければ…と思うばかりです。
後になって後悔しないように。
あ、もちろん父親もね。


母親という偉大な存在への愛に満ち溢れた、素敵な作品でした。
後半はずっと号泣警報発令中なので、決して電車の中などで読んではいけません。
☆5つ。