tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『空色勾玉』荻原規子

空色勾玉 (徳間文庫)

空色勾玉 (徳間文庫)


村娘狭也の平和な日々は祭りの晩に破られた。「鬼」が来て手渡した「水の乙女の勾玉」…憧れの「輝」の宮で待っていた絶望…そして神殿で縛められて夢を見ていた輝の末子稚羽矢との出会いが、狭也を不思議な運命へと導く…。神々が地上を歩いていた古代日本、光と闇がせめぎあう戦乱の世を舞台に織り上げられた、話題のファンタジー。

和風ファンタジーの傑作としてタイトルだけはよく聞いていたのですが、今回の文庫化を機にようやく読むことができました。
上橋菜穂子さんの「守り人」シリーズ同様、大人が読んでも十分読み応えのある、本格ファンタジーです。


舞台は神話時代の日本。
神々の御子が国を治め、光と影に分かれて戦う戦乱の世。
日本書紀古事記といった日本の歴史書をベースにしているので、世界観や舞台設定がしっかりしているのがよいと思います。
豊かな自然、移りゆく季節、人間たちの生命の営み…あらゆる場面が美しい日本語で生き生きと描写され、頭の中にくっきりと情景が思い浮かびます。
古語も使われ、難しい単語や漢字もたくさん出てきますが、決して読みにくかったり難解であったりすることはなく、中学生くらいの若い世代にも読みやすいように練られた文章で、かつ日本語の美しさも堪能することができます。
こうした確かな文章力と表現力があってこそ、ファンタジーという形式の物語は成立しうるのだということを実感させられました。


もちろんストーリーも読み応えたっぷりで、登場人物たちがみな個性豊かです。
人間同士の戦いを描いてはいますが、それは神々の戦いでもあります。
スケールが大きくて圧倒されますし、ちゃんと冒険小説としての側面もあり。
主人公の狭也(さや)は数奇な運命をたどって巫女になり、やがては大きな戦いに巻き込まれていきますが、世間知らずで大胆なところも、美しい王(おおきみ)に憧れたり、自分の居場所が分からず悩んだりするところはやはり14歳の少女。
現代の同世代の少年少女たちにも共感できる部分がたくさんあるのではないでしょうか。
決して遠い時代の特別な選ばれた人間としてではなく、等身大の女の子として笑ったり泣いたりしながら成長していく姿がさわやかでよかったです。
また、お年頃の狭也の夫が結局誰になるのかもこの作品の読みどころのひとつではないかと思います。
不老不死や輪廻転生といった「生と死」のテーマを扱った作品でありながら重さをあまり感じさせないのは、こうした狭也の成長や恋愛を描いた青春小説としての側面も大きいからなのだろうと思いました。


かなりボリュームがあるにもかかわらず、読みやすく美しい文章、スピード感がありワクワクしたりハラハラしたりするストーリー展開、魅力的な登場人物などで、一気に読ませる力を持った作品です。
このシリーズは「勾玉3部作」と呼ばれ、『白鳥異伝』『薄紅天女』と続くようです。
幸いなことに3ヶ月連続で文庫化ということなので、一気にシリーズの最後まで読めるのがとても楽しみです。
☆5つ。