- 作者: 北村薫
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2010/03/12
- メディア: 文庫
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日常のふとした裂け目に入りこみ心が壊れていく女性、秘められた想いのたどり着く場所、ミステリの中に生きる人間たちの覚悟、生活の中に潜むささやかな謎を解きほぐす軽やかな推理、オトギ国を震撼させた「カチカチ山」の“おばあさん殺害事件”の真相とは?優美なたくらみに満ちた九つの謎を描く傑作ミステリ短編集。
本格ミステリと文学をこよなく愛する北村薫さんらしい作品集です。
どの作品も「本格ミステリ」をテーマに、コメディタッチのものから文学的な香りがするものまで、さまざまな味わいが楽しめます。
個人的に一番面白かったのは「新釈おとぎばなし」。
日本人なら誰もが親しんだことのあるおとぎ話の世界がもしもミステリの世界だったら…という視点から、おなじみの「カチカチ山」を見事に本格ミステリとして解釈し直した作品です。
おとぎ話を本格ミステリに仕立て上げるその発想がまず面白い。
コメディタッチでお笑いに走るのかと思いきや、妙に細かいところまでしっかり描いて、しかもミステリらしく大どんでん返しまで仕込んであるところに北村さんの真面目さと本格ミステリへの愛が感じられます。
おとぎ話に関する薀蓄も満載というあたりも研究熱心な北村さんらしいですね。
そうかと思えばこんなギャグもあって、思わず噴き出してしまいました。
タヌキは、ウサギに擦り寄り、
「素敵なのはフネより君さ」
と、波平が聞いたら怒りそうなことをいう。
236ページ 13行目〜237ページ 2行目
表題作「紙魚家崩壊」とその続編(?)の「死と密室」も、本格ミステリをネタにしたコメディ作品です。
探偵助手役の女性が語り手なのですが、その女性の両手が恋に落ちている(意味分かります?)という設定が風変わりで面白い。
ミステリのお約束をネタに、くすりと笑わせてくれる作品です。
他に印象的だったのは「溶けていく」と「俺の席」。
2編ともとてもよくできたホラーです。
特に「溶けていく」はごく普通のOLが何気ない行動をきっかけに少しずつ狂っていく様子に、じわじわと足元から冷気が這い上がってくるかのようなぞくぞくする恐怖を感じました。
北村さんって心理的ホラーも上手いんだなぁと感心。
さすが器用な作家さんです。
それから、北村さんのファンならちょっとうれしい作品が「白い朝」。
北村作品でおなじみのあの名探偵の最初の謎解きがこれなのでしょうか。
あのシリーズを久々に読み返したくなりました。
笑いあり恐怖ありで、薄いのにバラエティに富んで満足度の高い短編集。
本格ミステリファンと北村作品ファンにおすすめです。
☆4つ。