tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『スタンド・バイ・ミー 東京バンドワゴン』小路幸也

スタンド・バイ・ミー (3) 東京バンドワゴン (集英社文庫)

スタンド・バイ・ミー (3) 東京バンドワゴン (集英社文庫)


東京、下町の老舗古本屋「東京バンドワゴン」。営む堀田家は今は珍しい三世代の大家族。今回もご近所さんともども、ナゾの事件に巻き込まれる。ある朝、高価本だけが並べ替えられていた。誰が何のために?首をかしげる堀田家の面々。さらに買い取った本の見返しに「ほったこんひとごろし」と何とも物騒なメッセージが発見され…。さて今回も「万事解決」となるか?ホームドラマ小説の決定版、東京バンドワゴンシリーズ第3弾。

ああ、やっぱりこのシリーズ大好きだ。
私は昭和のホームドラマを観ていた世代ではないのに、なぜかこのシリーズを読むと、懐かしい場所に帰ってきたかのような、ホッとする気分が味わえるのです。


東京の下町に古くから店を構える古本屋「東亰バンドワゴン」を営む堀田家は、今時珍しい大家族。
家訓が家の中のそこかしこに貼ってある中で毎日全員で食卓を囲み、ワイワイ賑やかな一家です。
その堀田家に降りかかる謎や難題をみんなが知恵を絞って解決するという連作短編集のこのシリーズも、この『スタンド・バイ・ミー』で3作目。
新しい家族も増え、ますます賑やかになった堀田家には相変わらず妙な事件が舞い込みます。


登場人物が非常に多く、堀田家だけではなくご近所さんや知人・親戚も含めてワイワイ賑やかな様子が目に浮かぶようなのですが、全員しっかりとキャラが立っていて上手く描き分けられているので、読んでいて混乱するようなことはありません。
しかもシリーズの新作が出るごとに新たな人物が登場して、どんどん話が大きく広がっているようです。
でもきっと、現実の家族だってそうですよねぇ。
子どもが成長して世界が広がれば、それに応じて人脈も広がる。
もちろん一方で別れもあるけれど、それ以上に人の輪は広がっていくものだと思います。
客商売をしている堀田家は他の家庭以上にその傾向が強いのでしょう。
少子化だの核家族化だのといった言葉とは無縁の堀田家がうらやましいです。


今回は「LOVEだねぇ」が口癖の伝説のロッカーで神出鬼没の我南人が主役的な役割を演じていますが、私が一番印象に残ったのは堀田家にお嫁に来たすずみさんでした。
京都で開催される古書店の会合に出席し、意地悪な古狸どもを相手に見事な目利きを見せ、啖呵を切ってみせるすずみさん、かっこよすぎです。
正直そこまでたくましい人だとは思ってもいなかったので、ビックリさせられると同時に読んでいて胸が躍りました。
実は辛く切ないエピソードも多いこのシリーズにおいて、胸がスカッとするような痛快な場面でした。
すずみさんのおかげで堀田家と「東亰バンドワゴン」は当分安泰ですね。
最後に収録されている表題作の「スタンド・バイ・ミー」は我南人と日本を代表する大物女優とのスキャンダル(?)が世間に公表されそうになるという堀田家最大の危機にハラハラしましたが、ちょっと反則とも言える強引な手段で無事に万事解決。
このスッキリきれいに話が終わる感じがストレスが溜まらずとても好きです。


相変わらず、語り手のおばあちゃん(幽霊!)の上品な語り口もなんだかホッとします。
心が温まる、気持ちのいい作品。
☆5つ。