tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『サイン会はいかが? 成風堂書店事件メモ』大崎梢

サイン会はいかが? 成風堂書店事件メモ (創元推理文庫)

サイン会はいかが? 成風堂書店事件メモ (創元推理文庫)


「ファンの正体を見破れる店員のいる店で、サイン会を開きたい」―若手ミステリ作家のちょっと変わった要望に名乗りを上げた成風堂だが…。駅ビルの六階にある書店・成風堂を舞台に、しっかり者の書店員・杏子と、勘の鋭いアルバイト・多絵のコンビが、書店に持ち込まれるさまざまな謎に取り組んでいく。表題作を含む五編を収録した人気の本格書店ミステリ、シリーズ第三弾。

2作目『晩夏に捧ぐ』は長編でしたが、今回はまた短編集に戻りました。
この作家さんは短編の方が上手い感じがするなぁ。
それに、舞台が成風堂書店に戻ったのも良かったと思います。
前作は「出張編」と銘打たれていて、夏休みを利用して他県へ出向くという話だったのですが、主人公の杏子や多絵のホームグラウンドでないため、「書店員の仕事ぶり」というこのシリーズの大きな魅力の一つが削られてしまっていたんですよね。
今回は杏子や多絵はもちろんのこと、他の店員や取次ぎ営業、出版社の編集者、売れっ子作家など、出版と書店業界に関わるさまざまな人々の仕事の様子が描かれ、この業界には「お客さん」としてしか関わっていない私のような読者にはとても興味深い部分がたくさんありました。
作者の大崎梢さんご自身が元書店員なのですよね。
そのためか、なんだか妙に愚痴っぽい部分もあるように感じましたが、それは書店員という職業の楽しい部分も大変な部分もよく知っているからこそ書けることなのでしょう。
その分リアリティがあるということなのだろうと思います。


ミステリとしては、やはり今回は表題作の「サイン会はいかが?」が一番面白かったです。
暗号ものが個人的に好きなんですよねぇ。
謎解き後のほろ苦い真相も私好みでした。
サイン会という書店にとっての一大イベントに謎解きを絡めたのも、「本格書店ミステリ」らしくてよかったと思います。
ストーリー的には「君と語る永遠」がよかったです。
「時が経っても、ずっとずっと残り続けるであろう本」に込められたある人物の想いが泣かせます。
それから、一番最後の一番短い作品「ヤギさんの忘れもの」もほのぼのするかわいらしいお話でよかったです。
この話に出てくる「プレゼントにぴったりな絵本」って実在の本なのですね!
Amazonで検索して書影を見ると、絵もとてもかわいらしいし、レビューも絶賛しているものばかりで、非常に興味が沸いてきました。
早速明日本屋で探して見てみようと思います。
…え?
書名は何かって?
それを書くと「ヤギさんの忘れもの」のネタバレになってしまうので書けないのがつらいところです(^_^;)


本と、本屋さんが大好きな人におすすめ。
程よいボリュームの短編集なのでとても読みやすいのもよいです。
☆4つ。