tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『告白』湊かなえ

告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)

告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)


「愛美は死にました。しかし事故ではありません。このクラスの生徒に殺されたのです」我が子を校内で亡くした中学校の女性教師によるホームルームでの告白から、この物語は始まる。語り手が「級友」「犯人」「犯人の家族」と次々と変わり、次第に事件の全体像が浮き彫りにされていく。衝撃的なラストを巡り物議を醸した、デビュー作にして、第6回本屋大賞受賞のベストセラーが遂に文庫化!“特別収録”中島哲也監督インタビュー『「告白」映画化によせて』。

いやはや、聞きしに勝るブラックな作品ですね。
ここまで人を嫌な気分にさせる要素を詰め込めるものかと、ある意味感心してしまいました。
好き嫌いがかなり激しく分かれそうな作品ではあるけれど、それでもただブラックなだけの作品でもないのは確かだと思います。


まず第1章の担任するクラスの生徒に娘を殺された女性教師の告白だけでも、一つの作品として成り立つほどのクオリティの高さでぐいぐい引き込まれました。
まるで自分が生徒として教室でその告白を一緒に聞いているかのように、話の展開に息を呑み、最後には言い知れぬ恐怖感を抱きました。
でも冷静になると読者として気になってくるのは、一体なぜこのようなことになったのか?
そしてそれはその後に続く章で、犯人や犯人の周りの人々による告白によって明らかにされます。
こうして書くと普通のよくあるミステリという感じですが、この作品の「怖さ」は、娘を殺された教師の復讐心と、登場人物全員の自己中心さにあります。


第1章の女性教師の告白が怖いのは、その告白が感情を抑えたものであり、計算尽くであることが感じられるからです。
淡々と、事実だけを順番に理性的に話しているように見えて、その裏では復讐心が燃えたぎっていることが感じられます。
娘を教え子に殺された教師は、犯人を司法の手に委ねるのではなく、自分自身の手で、一番残酷な方法で裁くことを選んだ。
自分の行った報復と告白が、犯人と他の生徒たちにどのような影響を及ぼすかをある程度想像した上で。
愛娘を殺されたことは悲しいことであり許されないことなのに、この女性教師に同情する気にもなれない…そこが一番怖いところだと思います。


そしてその後に続く人々の告白も同じように、同情できる部分が多かれ少なかれあるにもかかわらず同情する気になれないのです。
それは結局、どの人物も自分のことばかり考えていて、他人のことを馬鹿にしている人ばかりだから。
犯人を糾弾する教師も、犯人も、犯人の親も、エゴ丸出しという点では非常によく似ています。
自分の価値観とは違う考え方をする人間や、自分の役に立ってくれない人間を、「馬鹿」と見下す愚かさが痛々しい。
どの登場人物にも好感は持てないし感情移入もできないけれど、自分自身には他人を馬鹿にしている部分はないだろうかと、思わず考えさせられました。
自分より劣っている部分を他人に見出して安心する、というのは古今東西、どのような人間も少なからず持っている要素であるような気がします。
そういう人間の本質的な「悪」をえげつないまでにあからさまに描いて見せた作者に対しても、何とも言えない恐ろしさを感じました。


その他、教師と生徒との関わり方や母子関係、エイズへの偏見と誤解の現状など、いろんな視点から読むことのできる深みを持った作品だと思います。
それだけに、読んでいる間にどうしても感じずにいられない嫌悪感で離れていってしまう読者もいるであろうことがとてももったいなく感じられます。
心にずっしりと残るものがあった作品ですが、誰にでも「面白かったよ!」と薦められる作品でもなく、複雑な気持ちです。
☆4つ。