tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『ソロモンの犬』道尾秀介


秋内、京也、ひろ子、智佳たち大学生4人の平凡な夏は、まだ幼い友・陽介の死で破られた。飼い犬に引きずられての事故。だが、現場での友人の不可解な言動に疑問を感じた秋内は動物生態学に詳しい間宮助教授に相談に行く。そして予想不可能の結末が…。青春の滑稽さ、悲しみを鮮やかに切り取った、俊英の傑作ミステリー。

ううむ、なんとも不思議な雰囲気の作品だなぁ。
ミステリとも青春小説とも言い切れない、つかみどころのない感じがするというか…。
サクサク読めてそれなりに面白かったのですけどね。


非常に読みやすい作品なのですが、一体どういう話なのかがなかなかつかみきれませんでした。
冒頭はかなりミステリっぽくて、どういう謎解きが展開されるのかとワクワクしたら、その後に続くのは不器用な恋心を抱く青臭い男子大学生を主人公にした普通の青春小説。
途中、ある事件が起こるのですがそれはあくまでも「交通事故」。
その事故に関していくつかの謎が提示されるものの、殺人とかではなくあくまでも事故なので、その謎がミステリと呼べるものに繋がるのかどうか分からないまま物語が進んでいきます。
大きく動きそうであまり動かないストーリーは、一歩間違うと退屈なものになってしまいそうですが、間宮という強烈なキャラクターの大学助教授が登場するおかげで飽きずに面白く読ませてくれます。
そうしてミステリなんだか青春小説なんだかよく分からないまま物語が終盤に差し掛かったところで、一気に急展開。
どんでん返し2連発に、やっぱりこれはミステリだったのか、とうならされました。
青春小説の陰に隠れて伏線が見えませんでしたね。
この辺りはさすが道尾さん、といったところでしょうか。


個人的には犬が好きということもあって、犬の習性を利用したトリック(とはちょっと違うか…)というのは新鮮で面白かったです。
オービーという犬と、その飼い主である小学生の陽介との絆には心打たれるものがあります。
青春小説としては主人公・秋内の「痛さ」が切なくも面白いですね。
イマイチ空気が読めてなかったり、好きな女の子に対して妄想が炸裂するばかりでなかなか一歩が踏み出せなかったり…。
青臭くて滑稽ですが、憎めない。
秋内に比べて大人っぽい印象の友人・京也の意外な素顔も印象的でした。
この年頃の男子はみんなこんなアンバランスな一面を抱えているものなのでしょうか。
う〜ん…どうだったかな(もはや記憶の彼方・笑)
青春時代特有の青臭さと痛さを描いた小説といえば、米澤穂信さんが群を抜いて上手いという印象でしたが、道尾さんもなかなかいい線いってるなぁと思いました。


青春小説の陰にそっとミステリ的仕掛けを潜ませてある、というのは面白かったけど、がっつりミステリも読んでみたい気分。
☆4つ。