tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『星守る犬』村上たかし

星守る犬

星守る犬


朽ち果てた車の中で寄り添うように、男性と一頭の犬の遺体が発見された。鑑定の結果は男性が死後1年。だが犬は死後わずか3ヶ月。この時間差が意味するものとは? それは哀しくも愉快な一人と一頭の、残されたわずかな“生”を生き抜く旅の終着点―。

今さらですが、去年話題になったマンガ。
あちこちの書評やら書店での紹介文やらで「泣ける」だの「号泣必至」だの「切ない」だの散々聞かされて、ちょっと斜に構えてしまったところもあって、「号泣」と言うほどではありませんでしたが…やっぱり泣けました。


「おとうさん」と飼い犬「ハッピー」の、人生の終着点への旅の顛末を描いた表題作「星守る犬」と、その続編「日輪草」の2編が収録されています。
普通のサラリーマンだったはずの「おとうさん」は、いつしか娘にはグレられ、妻には離婚届を突きつけられ、職を失い、病気を抱えて、最後にはハッピーと2人だけのホームレス生活を余儀なくされるという、転落人生を歩む羽目になります。
この「おとうさん」をかわいそうと同情的に見るか、家族と向き合うことができずに結局見捨てられたダメ人間と取るかは、人によって見方が分かれそうなところ。
私は…あまりかわいそうとは思わなかったかな。
ただ、ダメ人間とも思わなかったです。
「おとうさん」は良くも悪くも「何もしなかった」だけなんですよね。
自分や家族の人生をよりよくするための努力もしなかったけど、だからと言って「おとうさん」が家庭を崩壊させる直接の原因になったわけでもない。
ただ、時の流れの中で妻も娘も社会もどんどん変化していくのに、「おとうさん」だけその変化についていけずにとり残されてしまった。
そういう人はけっこう現実にたくさんいるんじゃないかなぁと思うので、「おとうさん」がこんな悲惨な末路をたどらなければならない理由は何もなかったと思います。
でも、変化していく物事の中で、ハッピーだけはずっと変わらずに「おとうさん」に寄り添い続けた。
そのつぶらな瞳が愛おしくて切なくなります。


ただ、私は「日輪草」の方が泣けたなぁ。
主人公の「恐れずに愛すればよかった」というセリフで涙がボロボロ出ました。
もちろん「日輪草」は「星守る犬」あってこその話なんですけども。
タイトルの「星守る犬」という言葉の意味が効いていますね。
決して手に入らないものを、無駄と分かっていても追い求め続ける…それが人間。
手に入るはずのない空の星を見上げてばかりで、すぐそばにいる大切な存在に気付かず最後の最後になって後悔するような人生は何とか回避したいものですが…。


作者の村上たかしさんって、ヤングジャンプで連載していた『ぱじ』の作者の方なんですね。
なるほど、納得納得。
『ぱじ』は幼稚園児のももちゃんと、育て親の「ぱじ」(おじいちゃん)との2人暮らしを素朴なタッチで描いた4コママンガで、くすりと笑えてじんわり泣かせる名作でした。
こちらもとてもよい作品ですので、『星守る犬』とあわせてぜひ。




♪本日のタイトル:CHAGE&ASKA 「太陽と埃の中で」 より