tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『Story Seller 2』新潮社ストーリーセラー編集部・編

Story Seller〈2〉 (新潮文庫)

Story Seller〈2〉 (新潮文庫)


お待たせしました!!大好評アソンロジー第2弾をお届けします。日本作家界のドリームチームが再び競演。今回もオール読み切りで、読み応え満点。どこから読み始めても、他では経験できない読書体験が味わえます。物語大好きのあなたも、これから読み始めるあなたも、お気に入りの作品が必ず見つかることでしょう。著作リストも完備して、新規開拓のガイドとしても最適です。

新潮社の文芸誌「Story Seller」のそのまま文庫化第2弾。
第1弾の執筆陣から道尾秀介さんが抜け、代わりに沢木耕太郎さんが入りました。
相変わらずの豪華な作家陣で、非常にクオリティの高いアンソロジーです。
では早速各収録作品の感想を。

「マリーとメアリー ポーカー・フェース」沢木耕太郎

カクテル「ブラディー・マリー」についての薀蓄を散りばめたお話。
うん、これはエッセイ??
実在の作家名が出てきたりしているのでたぶんエッセイなんでしょうね。
沢木さんが飛行機に乗った時に最初に頼むお酒がブラディー・マリーなんだそうです。
これは村上春樹さんも同じなんだとか。
う〜ん、トマトジュースが嫌いな私は絶対に頼むことのないお酒だなぁ…。
お酒と旅という沢木さんらしい題材で楽しめました。

「合コンの話」伊坂幸太郎

ある合コンの様子を描いた話(タイトルそのまんまです)。
たかが(?)合コンでこんなに話を膨らませられるのか、とある意味感心しました。
ちょっと実験的な小説になっているので最初は戸惑いますが、読み進めるといつもの伊坂節でファンにはうれしい作品です。
合コンの薀蓄(?)や参加者それぞれの心理描写も面白い。
「おしぼりサイン」って…男子の間では常識だったりするの??(女子は全員でトイレに行きますよね〜)
ラストの意外な展開はなかなか感動的です。
今回はこの作品が一番気に入りました。

「レミング」近藤史恵

前回に引き続き自転車レースチームの話。
今回も自転車競技の奥深さに感心することしきりでした。
団体スポーツにおける人間関係もいろいろ難しいものがありますね。
単純に技術が優れていればいいというものではないというところに自転車ロードレースの面白さがあるのだなと思いました。
次にいよいよ『サクリファイス』を読むのですが、この「レミング」が『サクリファイス』の前日譚になっているそうで、ますます『サクリファイス』への期待が高まりました。

「ヒトモドキ」有川浩

人並み外れた倹約生活を送り、あちこちからごみを拾ってきては家の中に溜め込んでいる伯母を抱えた姉弟の話。
前回の有川さんの話も相当強烈だったけど、また今回も強烈だなぁ。
常識というものが通用しない伯母さんの描写が恐ろしくてぞっとします。
こんな人、身内にいたら…いや身内じゃなくても近所や職場にいたらたまったものではありません。
甘甘ラブコメの『塩の街』を読んだ直後だったので、作風のギャップがとても印象に残りました。
もっとラブコメ以外の有川さんの作品を読んでみたい気がします。

「リカーシブル――リブート」米澤穂信

ある地方都市に引っ越してきたばかりの女子中学生ハルカと、血の繋がらない弟サトルの姉弟の話。
おや、偶然だろうけど姉弟の話が2つ続きましたね。
ちょっと複雑な家庭で居心地の悪さを感じ、サトルにも嫌悪感を抱くハルカと、ハルカの友人リンコが遭遇したある事件の顛末が印象的です。
サトルの不思議な能力についてもう少し掘り下げて書いてみて欲しい気もしたけど、この作品はこれでいいんだろうな。
ラストのハルカのセリフが好きです。

「444のイッペン」佐藤友哉

東京ビッグサイトの「ペット博」会場から、444匹の犬がいっぺんに消えてしまうという不思議な事件の話です。
さらには殺人も起こったり、探偵役が出てきたりしてミステリ風ですが、素直な謎解き小説ではありません。
この作品は前回の「333のテッペン」の続編ですが、主人公土江田(とえだ)の過去は相変わらず謎だなぁ…。
このまま「Story Seller」で話を続けていって、そのうち全ての謎が解明されるのでしょうか。
でも個人的には佐藤さんの文章はちょっと苦手…。

「日曜日のヤドカリ」本多孝好

小学生の娘とその継父、そしてもう一組の血の繋がらない親子が出会う、ある日曜日のお話。
丁寧語で会話する親子(血の繋がりはない)が微笑ましい。
ぎこちないように見えて、ちゃんと親子の絆が結ばれているところも。
親子関係にもいろいろあるけど、血の繋がりがなくても家族っていいなぁと思わせてくれる、ちょっといい話です。
半年に一度くらいしか料理をしないというお母さんの料理がどんなものか、怖いもの見たさで興味あります(笑)


今回も粒揃いの作品集で、とても楽しめました。
収録作家の中に好きな作家さんがいる人も、そうでない人も、ぜひ。
☆4つ。