『ワーキング・ホリデー』坂木司

ワーキング・ホリデー (文春文庫)

「初めまして、お父さん」。元ヤンでホストの沖田大和の生活が、しっかり者の小学生・進の爆弾宣言で一変！突然現れた息子と暮らすことになった大和は宅配便ドライバーに転身するが、荷物の世界も親子の世界も謎とトラブルの連続で…！？ぎこちない父子のひと夏の交流を、爽やかに描きだす。文庫版あとがき&掌編を収録。

やっぱり坂木司さんの作品は和むなぁ。
坂木さん得意の日常の謎ミステリではありませんが、気持ちいいくらいに「いい話」の作風はいつもと同じで、心が洗われるようです。

主人公・沖田大和は元ヤンキーで、現在はあまり売れないホスト。
そんな大和の前に突然現れた男子小学生・進が、それまで存在さえ知らなかった自分の実の息子だと判明します。
ある日客との間に起こしたトラブルが元でホストクラブを辞めることになり、新興宅配便会社に転職した大和は、夏休み期間だけ進と一緒に暮らすことになります。
突然現れた「息子」に戸惑い、ぎこちないながらも少しずつ父親としての自覚を持ち始める大和がいいですね。
元ヤンキーだけにひねくれたところがあって、不器用に進と接しながらも、家族のいる温かさを実感し始める大和がなんだか可愛くてくすぐったくて、読みながらニマニマしちゃいます。
進が小学生離れしたしっかり者で、完璧に家事をこなす「主夫」であるという、大和とは対照的なキャラクターなので、凸凹父子のやり取りの全てが面白くて笑えます。
それでいてラストは温かい感動をもらえました。
進ももちろん初めてお父さんと過ごした短い夏休みを経て成長したのでしょうが、それ以上に大和が父親として社会人として成長しているのが感じられました。
育児は「育自」って、本当ですね。
非常に清々しい読後感で、優しい気持ちになれました。
この温かさと優しさが坂木作品の持ち味なんだよなぁ。

また、『シンデレラ・ティース』の歯医者さん、『切れない糸』のクリーニング屋さんなど、各作品でさまざまな職業を魅力的に描き出す坂木さんの手腕も見逃せません。
今回の主人公・大和の職業は宅配便の配達員。
かっこよく配送トラックを乗り回すのかと思いきや、大和にあてがわれたのはなんとリヤカー。
大きなリヤカーに荷物をいっぱいに積んで引っ張って町内を駆け巡る元ホストの姿を想像すると思わず笑ってしまいますが、最初は嫌がっていた大和が徐々に配達員として悪戦苦闘しながらもさまになっていく姿はやっぱりかっこいい。
ホストであれ、リヤカー引きの配達員であれ、年齢も性別も関係なく、どんな職業でもプロとして一生懸命働く人はみんな輝いているのです。
学校の職業教育の教科書としてこの作品を使ったらいいんじゃないかなぁなんて思いました。
ちょっと主人公の素行が悪いし、夜の世界の描写もありますが。

いつもながらのちょっと笑えて心温まる作風の連作短編集。
気軽にすいすい読めるので、ちょっと疲れ気味のときにもぜひ。
続編も刊行予定とのことで、大和と進の親子関係がどうなるのか、大和と進の母親との復縁はあるのかなど、今後の展開も気になります。
☆4つ。