tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『夢見る黄金地球儀』海堂尊

夢見る黄金地球儀 (創元推理文庫)

夢見る黄金地球儀 (創元推理文庫)


1988年、桜宮市に舞い込んだ「ふるさと創生一億円」は、迷走の末『黄金地球儀』となった。四半世紀の後、投げやりに水族館に転がされたその地球儀を強奪せんとする不届き者が現れわる。物理学者の夢をあきらめ家業の町工場を手伝う俺と、8年ぶりに現われた悪友・ガラスのジョー。二転三転する計画の行方は?新世紀ベストセラー作家による、爽快なジェットコースター・ノベル。

伊坂幸太郎さんの『陽気なギャングが地球を回す』のシリーズと似たような雰囲気のクライムコメディ。
舞台はもちろん海堂尊作品ではおなじみの「桜宮市」です。


桜宮市が「ふるさと創生一億円」を使って製作した「黄金地球儀」。
時は流れて2013年、桜宮市役所管財課の課長・小西に嵌められ、小さな鉄工所で営業マン兼工員として働く平沼平介はめちゃくちゃな条件で「黄金地球儀」の警備責任者を押し付けられてしまいます。
そこへやってきたのは8年間姿を消していた平介の悪友で、「ガラスのジョー」こと久光穣治。
ジョーから持ちかけられたのは、なんと黄金地球儀の強奪計画。
黄金地球儀を強奪して桜宮市の役人たちの鼻を明かしてやりたい気は満々ながら、一方で黄金地球儀に何かあった場合責任を取らされるのは平介…という奇妙な条件の中、2人の強奪計画は幕を開けます。


このひとひねりした設定がいかにも海堂さんらしいなぁと思います。
単に「お宝」を奪うという話にするのではなく、いかにばれないように地球儀の金塊部分だけをいただくかという部分が読みどころです。
それに加えて、物理学者崩れの平介、ヘンなセンスの機械を発明してばかりの豪介親父、元SEで厳しい経理部員の君子、強引で能天気なガラスのジョー、平介に一方的な想いを寄せるアイ、小錦のようにでっぷり太った喰えないオヤジ・小西など、個性豊かな登場人物が面白いです。
さらには「田口&白鳥」シリーズに出てきた人物が意外なところで登場したりしていて、海堂作品の世界を盛り立てています。
病院が舞台でなくても、同じ世界で展開する物語は、いつもと同じ海堂ワールドで安心感があります。
実際、登場人物の多彩さ、ちょっとした言葉の言い回し、お役所や役人たちに対するパンチの効いた皮肉など、いつもの海堂ワールドを形作る要素がしっかりと生きていて、高いレベルで安定して読ませてくれる作品でした。


ただ、最後の方が意外な展開になったのはよかったと思うのですが、エピローグで急にさわやかな「いい話」になってしまったのは個人的にはちょっと残念かな。
最後まで面白おかしいコメディータッチを貫いて欲しかったような気がします。
でも、さすがの軽快なストーリー運びで十分楽しませてもらいました。
☆4つ。