tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『新釈 走れメロス 他四篇』森見登美彦

新釈 走れメロス 他四篇 (祥伝社文庫 も 10-1)

新釈 走れメロス 他四篇 (祥伝社文庫 も 10-1)


あの名作が京都の街によみがえる!? 「真の友情」を示すため、古都を全力で逃走する21世紀の大学生(メロス)(「走れメロス」)。恋人の助言で書いた小説で一躍人気作家となった男の悲哀 (「桜の森の満開の下」)。――馬鹿馬鹿しくも美しい、青春の求道者たちの行き着く末は?誰もが一度は読んでいる名篇を、新世代を代表する大人気著者が、敬意を込めて全く新しく生まれかわらせた、日本一愉快な短編集。

あ〜、面白かった〜〜!!
小説を読んでこんなに笑ったのは久しぶり。


森見登美彦さんが得意とする、阿呆で怠惰で妄想に取り付かれたモラトリアムを満喫する京大生たち(はっきり「京都大学」とはどこにも書いていませんがあきらかに京大です)の青春物語が、日本近代文学の名作短編をモチーフに新たな進化を遂げました。
その短編とは、表題作「走れメロス」(太宰治)、「山月記」(中島敦)、「藪の中」(芥川龍之介)、「桜の森の満開の下」(坂口安吾)、「百物語」(森鴎外)というそうそうたるラインナップ。
これらの短編のパロディというほど軽薄なわけでもなく、トリビュートというほど大げさなものでもなく…何と説明したらよいのかよく分かりませんが、とにかくこれらの名作の設定やエッセンスを森見流に料理すると、不思議な味わいとおかしみを持つ青春小説ができあがったという感じです。


一番強烈なのがやはり表題作の「走れメロス」。
「抱腹絶倒」という言葉がぴったりの爆笑短編です。
くれぐれも電車の中や病院の待合室などで読んではいけません(笑)
とにかく全編を通して突き抜けた阿呆っぷり。
阿呆の極致というか何と言うか…ここまで突き抜けていると爽快です。
主役2人のひねくれた友情がなんとも言えずおかしくて、思い出すだけで笑えてきます。
まさに森見ワールド全開の一篇。
『夜は短し歩けよ乙女』の番外編とも言えるのかな。
森見ファンなら必読です。


もう一つ私のお気に入りは「桜の森の満開の下」。
どこか幻想的で、切なくて、満開の桜の妖しげなまでの美しさが目に浮かぶような映像的な描写が素晴らしかったです。
坂口安吾の原作は読んだことがなかったのですが、思わず「青空文庫」(http://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/42618_21410.html)で探して読んでしまいました。
なるほどなるほど、原作の持つ妖しげな雰囲気をうまく現代風にアレンジしていますね。
満開の桜は言うまでもなく美しいけれど、その美しさに恐怖心のようなものを持ってしまうというのも分かるような気がします。
舞台が古都・京都ならなおさら。
桜の季節に哲学の道を歩きたくなる作品でした。


森見ファンにとっては、他の森見作品の世界とのつながりが随所に見られるのもうれしいところです。
『夜は短し歩けよ乙女』とのつながりはもちろん、現在朝日新聞夕刊に連載中の最新作「聖なる怠け者の冒険」(毎日とても楽しみに読んでいます♪)に登場する夏目巡査が「山月記」にも登場しているのを発見した時はとてもうれしくなりました。
こういうつながり、伊坂幸太郎さんの作品でも見られますが、その作者の愛読者にとってはうれしいものですね。
もちろん森見作品が初めてという人にも十二分に楽しめる作品だと思います。
繰り返すけど、面白かった〜〜!!
☆5つ。
森見作品最高です。
もっともっと読みたいな。